心停止蘇生後早期に深部体温を32〜34℃まで冷却し、神経学的予後の改善を図る低体温療法について、日本においても多施設で有効性やプロトコルの検証を行おうとする登録研究J-PULSE-HYPOが最終段階に入っている。3月5日から京都で開催された第74回日本循環器学会総会・学術集会でも、非VF(心室細動)に対する成績、冷却水輸液の効果、心停止時間と予後の関係などについて、J-PULSE-HYPOのデータを検討した中間報告がいくつかなされた。

 J-PULSE-HYPOは、心停止後に低体温療法を施行された患者の予後を追跡する登録研究。国内16施設が参加し、登録期間は2005年から5年間。一次エンドポイントは30日後の良好な神経学的転帰(CPC 1または2)、二次エンドポイントは24時間、1週間、30日後の生存率としている。

 横浜市立大学市民総合医療センター高度救命救急センターの田原良雄氏は、非VF例に対する低体温療法の効果について報告した。VFに対する低体温療法については欧米の試験などで効果がほぼ認められているが、非VFについては検討があまり進んでいない。そこで田原氏らは、J-PULSE-HYPOの281例中、無脈性電気活動(PEA)26例、心静止(Asystole)16例の非VF例について解析した。

 その結果、良好な神経学的転帰を達成したのは、VF群の62%に対し、PEA群では35%、Asystole群では6%。非VF例でも、特にPEAについては低体温療法の効果が期待できるという可能性を示した。

 J-PULSE-HYPOは低体温療法の有効なプロトコルの検討も大きな目的の1つとしている。冷却法についても、体表クーリング、胃洗浄、冷却水輸液、冷却ガス吸入など複数の方法が各施設の判断で採用されているのが現状だ。このうち、冷却水輸液は低体温の維持には向かないが、低体温の導入については簡便で低コストであるため、有用性が指摘されている。

 駿河台日本大学病院循環器科の松崎真和氏は、冷却水輸液の効果について考察。J-PULSE-HYPO登録例の中からVFあるいはVT、目標体温が34℃に設定されていた161例を抽出し、冷却水輸液を行った70例(IV群)と行わなかった91例(非IV群)を比較した。

 両群の背景に有意差はなく、虚脱から低体温導入までの時間はIV群が有意に短かった(中央値:49分 vs. 170分)。目標到達時間もIV群の方が有意差はないものの短い傾向にあった。「30日後の良好な神経学的転帰」の達成率はIV群が73%(53/71)、非IV群が52%(47/91)で、IV群の方が有意に高かった(p=0.006)。30日後の生存率はIV群が90%(63/71)、非IV群が80%(73/91)で、両群に有意差はなかった(p=0.09)。また、合併症や輸血の頻度についても、両群に有意差はなかった。

 これらの結果から松崎氏は、「冷却水輸液による低体温療法は積極的に施行すべき」と結論。また、追加の検討から、食道での体温モニタリングは膀胱や直腸と比べて2℃程度低い値となるため、注意が必要とした。

 駿河台日本大学病院救急科の蘇我孟群氏は、J-PULSE-HYPO登録例における心停止時間(time interval from collapse to ROSC)と各エンドポイントの関係を解析し、心停止時間が25分以内で低体温療法を行った患者では8割以上が社会復帰していることを報告した。蘇我氏は低体温療法の普及とともに、心停止時間25分以上および非VF/VTの症例に対する有効な手法の検討の必要性を強調した。

 J-PULSE-HYPOでは2009年12月までに登録された症例について2010年3月までの予後を確認し、最終の集計を行う予定。今回報告されたテーマを含めて様々な解析が行われ、低体温療法に関する日本発のエビデンスが年内にも発信される見込みだ。

(日経メディカル別冊編集)