岩手医大心血管腎内分泌内科の瀬川利恵氏

 血漿BNPは、一般住民の将来の心血管疾患発症高リスク群の同定に有用なマーカーになり得るのではないか──。岩手医大心血管腎内分泌内科の瀬川利恵氏が、第74回日本循環器学会総会・学術集会で発表した。

 心血管疾患(CVD)発症の高リスク群の同定に有用なマーカーとしては、フラミンガムリスクスコア(FRS)、血漿BNP、高感度CRP推定糸球体ろ過率eGFR)などが知られている。しかし、これらのマーカーが一般住民のCVDの発症予測にどの程度有用か比較検討した報告は少ない。そこで、瀬川氏は、FRS、BNP、CRP、eGFRの4つのマーカーのCVD発症予測能を比較検討した。

 岩手医大では現在、岩手県北部地域の一般住民を対象としたIwate-KENCO Studyを進行中だ。今回の試験は、このStudyへの参加に同意した人を対象とした。岩手県北部地域(二戸・久慈医療圏)の人口は約12万5000人。このうちの5%程度をコホートに組み込んだ。

 ベースライン調査は2002年4月から2004年12月に施行した。心筋梗塞や脳卒中の既往のある例を除外し、血漿BNP、高感度CRP、FRS、eGFRの4つのデータがある男女1万3058人(平均年齢64.3歳)を対象とした。

 調査では、質問票により既往歴や内服歴を確認し、血圧、心電図などを測定。血清クレアチニン、HbA1c、随時血糖、中性脂肪、コレステロール、血漿BNP、高感度CRPなどの血清マーカーを記録した。

 コホートを前向きに観察し、CVD(脳卒中、急性心筋梗塞、突然死、うっ血性心不全)の発症を調査した。

 各マーカーの80パーセンタイル値以上の群(eGFRは20パーセンタイル値以下とした)をCVDのハイリスクと考え、それらの相対危険度をCoxの比例ハザードモデルを用いて算出した。さらに、ROC解析による曲線下面積を算出し、各マーカーのCVD発症予測能を比較検討した。

 解析対象者の背景は、男性4727人、女性8331人で、平均年齢は64.3歳。平均収縮期血圧130mmHg程度、平均BMIは男性23.8kg/m2、女性24.3kg/m2だった。中性脂肪は男性193.8±32.7mg/dL、女性208.9±31.1 mg/dL、平均HbA1cは男女とも5.1%程度、FRSは男性13.9±4.9、女性11.1±7.1、eGFRは男性76.6±15.6mL/分、女性74.3±14.8 mL/分、CRPが男性0.5(-10.7)mg/L、女性0.4(-18.2)mg/L、BNPは男性15.0(-1440)pg/mL、女性18.2(-510)pg/mLだった。

 FRSはいくつかのバーションがあるが、今回は昨年報告されたgeneral cardio vascular diseaseの死亡予測用として報告されているリスクスコアを使用。年齢、HDL、コレステロール、収縮期血圧、喫煙、糖尿病をスコア化して点数を付けた。

 4つの指標の80パーセンタイル値は以下の通り。高感度CRPは男性の80パーセンタイル値は1.3mg/L(中央値0.5)、女性の80パーセンタイル値は1.0mg/L(中央値0.4)。eGFRは男性の20パーセンタイル値は64.0mL/min(中央値74.7)、女性の20パーセンタイル値は62.5mL/min(中央値74.3)。FRSは男性の80パーセンタイル値は18(中央値14)、女性の80パーセンタイル値は80(中央値11)。血漿BNPは男性の80パーセンタイル値は36.7pg/mL(中央値15.0)、女性の80パーセンタイル値は37.2pg/mL(中央値18.2)だった。

 平均観察期間は2.9年、その間、CVDのイベントを発症したのは352人だった。CRP、eGFR、FRS、血漿BNPの4つのマーカーそれぞれで、定義したパーセンタイル値を満たした群と満たさなかった群を、カプランマイヤー解析により比較すると、BNPをマーカーにした場合は、その他の3つのマーカーより、早期からイベント発症率が高く、発症が早い段階で予測できる可能性があることが分かった。

 各マーカーを比較するために性別のみで補正して、各マーカーの0パーセンタイル値におけるCVD発症のハザード比を求めたところ、CRPは1.38、eGFRは1.72、FRSは2.54、BNPは3.46で、CVD発症頻度が最も高いのは血漿BNPが80パーセンタイル値を超える群であることが明らかになった。BNPパーセンタイル値は、実数としては、男性で37、女性でも40くらい。実際のイベントとしては脳卒中が半数近くを占め、心不全と心筋梗塞は少なかった。

 さらに、各マーカーのCVD発症予測能について、ROC曲線下面積(95%Cl)を調べたところ、CRPは0.57(0.54-0.60)、eGFRは0.56(0.52-0.60)、FRSは0.61(0.58-0.66)、血漿BNPは0.67(0.63-0.70)であり、ROC曲線下面積が最も大きいのも血漿BNPであることが分かった。

 以上の結果から、瀬川氏は、「血漿BNPは一般住民の将来の脳心血管疾患発症の高リスク群の同定に有用なマーカーになる可能性がある」と述べた。

(日経メディカル別冊編集)