国立循環器病センターの堀尾武史氏

 高血圧治療ガイドライン2009」(JSH2009)では合併症がある患者に対する“厳格な”降圧目標を示しているが、その達成はなかなか難しく、特に家庭血圧ではその傾向が顕著になることを、3月5日から7日まで京都で開催された第74回日本循環器学会総会・学術集会のシンポジウム「JSH2009を検証する」で、国立循環器病センターの堀尾武史氏が報告した。集計の対象としたのはJSH2009発行以前の2007年のデータだが、現場での課題、目標値の妥当性を考える上で様々な示唆を与えそうだ。

 JSH2009では降圧目標を若年者・中年者では130/85mmHg未満、高齢者では140/90mmHg未満、糖尿病患者、CKD(慢性腎臓病)患者、心筋梗塞後患者では130/80mmHg未満、脳血管障害患者では140/90mmHg未満と定めている。家庭血圧については、それぞれ5mmHg低い値を目標値の“目安”と位置づけている。

 堀尾氏らは高血圧の専門施設である国立循環器病センター高血圧腎臓内科外来の患者について、ガイドライン改訂前における外来血圧と家庭血圧のコントロール状況を集計し、JSH2009の降圧目標がどの程度達成されているかを評価した。

 調査の対象は、国立循環器病センター高血圧腎臓内科外来で降圧治療中の高血圧患者979人(男性494人)。内訳は高齢者615人、若中年者364人、糖尿病合併239人、CKD合併359人。外来血圧は2007年1月〜12月における全外来受診時の平均、家庭血圧は同じ期間における外来受診前3日間の値の平均とし、降圧目標の達成率などを調べた。

 対象者全体の平均年齢は67歳。降圧薬の平均投与数は2.1剤で、Ca拮抗薬は69%、レニン・アンジオテンシン系阻害薬は63%、利尿薬は34%、β遮断薬は36%に処方されていた。高齢者ではCa拮抗薬と利尿薬の処方の割合は若干多く、若中年者では逆に若干少なかった。糖尿病群、CKD群の降圧薬平均投与数は共に2.6剤と多く、特に利尿薬は4割以上で処方されていた。

 血圧の平均値は全体で見ると「まずまずコントロールされている」(堀尾氏)レベル。外来血圧は136/78mmHg、家庭血圧(朝)は134/79mmHg、家庭血圧(夜)は130/75mmHgで、家庭血圧(朝)の測定率は67%だった。

 各群ごとに外来血圧について降圧目標の到達割合をみると、高齢者では目標の140/90mmHg未満にコントロールされていたのは63%。若中年者でも66%は140/90mmHg未満だったが、目標の130/85mmHg未満は28%にとどまっていた。

 この傾向は糖尿病、CKDでも同様で、140/90mmHg未満は糖尿病で69%、CKDで64%だったが、目標の130/80mmHg未満となると、それぞれ25%および20%。少なくともJSH2009発表以前では“厳格な”降圧は達成できていなかったという状況が明らかになった。

 さらに家庭血圧(朝)になると、高齢者でこそ49%が目標の135/85mmHg未満に到達していたが、若中年者では目標の125/80mmHg未満は11%、糖尿病およびCKDでは目標の125/75mmHg未満にコントロールされていたのは8%および7%にとどまった。

 さらに、外来血圧と家庭血圧の関係からコントロールの状態を、「コントロール良好」(外来血圧<140/90mmHg、家庭血圧(朝)<135/85mmHg)、「白衣高血圧」(外来血圧≧140/90mmHg、家庭血圧(朝)<135/85mmHg)、「仮面高血圧」(外来血圧<140/90mmHg、家庭血圧(朝)≧135/85mmHg)、「コントロール不良」(外来血圧≧140/90mmHg、家庭血圧(朝)≧135/85mmHg)の4タイプに分類。全体では、「コントロール良好」36%、「白衣高血圧」12%、「仮面高血圧」27%、「コントロール不良」25%という内訳になった。

 上記のカットオフ値を各群の目標値に置き換えて、同様のタイプ分けを行うと、若中年者では「コントロール良好」5%、「コントロール不良」70%、糖尿病では「コントロール良好」4%、「コントロール不良」68%、CKDでは「コントロール良好」2%、「コントロール不良」74%という結果に。「コントロール良好」の割合は軒並み一桁台となった。

 もっとも、これらの結果の解釈については、2007年時点のデータであることを堀尾氏はまず強調。JSH2009で家庭血圧の目標が示されたことで、家庭血圧への介入が進めば「コントロール状況はかなり改善する可能性がある」とした。また、糖尿病やCKDなど合併症を有する場合の降圧については、降圧目標値の意識が希薄、合併症が重度の例では達成自体が難しいという2つの課題を提示した。

 JSH2009作成の事務局を務めた大阪大学の楽木宏実氏はフロアから「JSH2009で示した家庭血圧は現状では目安。逆にその妥当性に対する感触を伺いたい」と質問。堀尾氏は「外来血圧の目標140/90mmHgに対して家庭血圧の目標135/85mmHgはほぼ妥当と認知されていると思う。しかし、130/80mmHgからも同じように5mmHgを引くのが妥当かどうかは今後の検討が必要かもしれない。また、合併症も軽症か重症かでリスクは異なり、降圧目標が一律であるべきかどうかも今後の検討課題と思われる」と答えた。

(日経メディカル別冊編集)