福岡大学心臓・血管内科学の朔啓二郎氏

 3種のストロングスタチンは16週間での安全性および有効性に差はなかった。患者背景・合併症を考慮し、医師の判断によって自由に選択できる──。福岡大学心臓・血管内科学の朔啓二郎氏は、3月5日から京都で開催されている第74回日本循環器学会総会・学術集会のLate Breaking Clinical Trialsセッションで、3つのストロングスタチンの安全性と有効性を直接比較したPATROL試験の結果を発表した。

 現在国内では3つのストロングスタチンであるアトルバスタチンピタバスタチンロスバスタチンが利用されているが、各薬剤の承認時に示された副作用発現率は8.7%から35.6%と異なっている。また、アジア人では欧米人と比較してスタチンの血中濃度が増加するという報告があり、3剤の安全性を検討する意義があるとして、朔氏らはPATROL試験を実施した。

 PATROL試験には、九州の医療施設を中心に51施設を受診した、LDL-コレステロールが140mg/dL以上または動脈硬化性疾患診療ガイドライン(2002年版)の管理目標値に到達していない患者302例が登録された。

 臨床試験参加への同意取得後、高脂血症治療薬服用例では中止期間を4週間以上設定し、その後、4週間以内に試験薬の投与が開始された。アトルバスタチン(10mg/日)群101例、ロスバスタチン(2.5mg/日)群100例、ピタバスタチン(2mg/日)群101例に割り付けられた。試験開始後4週間以内にLDL-C値が管理目標値に到達していない場合はそれぞれの薬剤の用量を倍量にして投与した。試験期間は2007年2月から2009年4月で、治療期間は16週間とした。

 PATROL試験の主要評価項目は、投薬後16週(4カ月)間の副作用の発現率とLDL-Cの治療前後の低下率。副次評価項目は、安全性評価項目として有害事象や副作用の発現件数、各臨床検査値の変化などを評価。有効性評価項目として、HDL-Cやトリグリセリドの変化率、LDL-C/HDL-C比の変化率とともに、LDLの質的解析として小粒子LDLや速移動性LDLを評価した。

 3群の患者背景に有意な差はなかった。主要評価項目である16週間の副作用の発現率も、1つ以上の有害事象が見られた例は、アトルバスタチン群51.5%、ロスバスタチン群46.0%、ピタバスタチン群52.5%で有意差はなかった。また、薬剤に関連した有害事象としては、アトロバスタチン群18.2%、ロスバスタチン群12.0%、ピタバスタチン群17.2%と有意差はなく、服薬中止も3群間に有意差は見られなかった(アトルバスタチン群13.1%、ロスバスタチン群11.0%、ピタバスタチン群12.1%)。2カ月目でスタチンを増量したのはアトルバスタチン4%、ロスバスタチン群6%、ピタバスタチン群4%で、設定した3薬剤の用量で脂質管理目標値を達成可能で、増量が必要な症例数は3群間で差はないと考えられた。

 主要有効性評価項目であるLDL-Cの変化率は、3群とも投与1カ月目からLDL-Cが有意に低下し、3群間で変化率に有意差はなく、試験の目的とした3つの薬剤の間でのLDL-C値変化率についての非劣性が証明された。

 安全性の副次評価項目として測定した臨床検査値については、GPTのみアトルバスタチン群で異常値とされた例が24.7%と、ロスバスタチン群13.4%、ピタバスタチン群12.6%に比べて有意に高かったが、GOT、Cr、CPK、γ-GTPについては3群間で有意差はなかった。アトルバスタチン群で有意差が見られたGPTについても、重症度グレード別に解析すると、グレード1、グレード2のそれぞれの分類で3群間に有意差はなくなった。

 HbA1cは正常範囲内でアトルバスタチン群(5.7±0.1%→5.8±0.1%)、ロスバスタチン群(5.5±0.1%→5.6±0.1%)が有意に増加し、ピタバスタチン群では増加しなかった(5.4±0.1%)。尿酸値は、正常範囲内でアトルバスタチン群(5.2±0.1→5.0±0.1)、ロスバスタチン群(5.4±0.2→5.2±0.2)と有意に低下し、ピタバスタチン群の変化は有意ではなかった(5.1±0.1→5.0±0.1)。CKは正常範囲内でアトルバスタチン群で有意に増加し(116±7→132±12)、ロスバスタチン群(117±9→122±8)、ピタバスタチン群(108±5→110±5)と変化は有意ではなかった。eGFRはロスバスタチン群で有意に増加(73.1±1.7→74.4±1.8)したが、アトルバスタチン群(75.7±1.4→76.2±1.3)、ピタバスタチン群(72.0±1.6→71.6±1.7)の変化は有意ではなかった。

 有効性の副次評価項目については、HDL-Cはロスバスタチン群で有意に上昇し(56.6±1.3→59.2±1.4)、アトルバスタチン群(56.9±1.4→58.0±1.5)、ピタバスタチン群(59.5±1.5→61.3±1.4)の変化は有意ではなかった。トリグリセリド、LDL-C/HDL-C比は3群とも試験開始時から有意に減少した。hs-CRPはアトルバスタチン群(0.114±0.024→0.110±0.143)、ピタバスタチン群(0.143±0.043→0.129±0.039)と有意に減少したが、ロスバスタチン群の変化(0.114±0.018→0.115±0.020)は有意ではなかった。LDLの質的評価については、LDL分画中のアポB粒子数やSmall dense LDL-C、速移動性LLや遅移動性LDLが3剤とも試験開始時から有意に減少し、3群間で差は見られなかった。

 朔氏は、3剤間で安全性、有効性に有意な差はなく、承認時や使用成績調査報告された安全性に違いが見られたが、PATROL試験の結果からは安全性に優劣はないとした。また、正常範囲内ではあるが、臨床検査値の変化に違いが見られたことから、患者背景・合併症を考慮し、医師の判断によって自由に選択できると締めくくった。

 PATROL試験のコメンテーターとして登壇した日本医科大学内科学第一の水野杏一氏はPATROL試験が実施された背景として、日本人は欧米人に比べて冠動脈疾患のリスクが低いことから、副作用と効果のバランスを考慮して最適なスタチンを選択することが求めらると指摘。今後、PATROL試験に望むこととして、(1)試験期間が短い割に服薬中止が10%と高い理由が不明、(2)安全性をターゲットとして絞るなら、第一世代、第二世代スタチンのデータとの比較も必要、(3)スタチンによる糖尿病の増加がメタ解析(Lancet 2010;9716:735-742)で報告されている。新規糖尿病発症が増えるかは長期の追跡が必要、(4)3種のスタチンは患者背景・合併症を考慮し、医師の判断によって自由に選択できる──と語った。

(日経メディカル別冊編集)