自治医科大学循環器内科の苅尾七臣氏

 今年1月に発表された新しい高血圧治療ガイドラインJSH2009では、心血管リスクが高い患者に対して、降圧治療を早期に開始し、24時間にわたって血圧を管理する必要があることを強調している。3月20日〜22日に大阪で開催された第73回日本循環器学会・学術集会では、心血管リスクを早期にとらえる指標として、早朝高血圧と日中・夜間の血圧急上昇(サージ)が重要であることが指摘された。Featured Researchセッションで、自治医科大学循環器内科の苅尾七臣氏と星出聡氏が関連する成績を報告したもの。

 米国の高血圧治療ガイドラインでは、血圧が140/90mmHg未満でも120/80mmHg以上であれば、高血圧予備軍を意味する前高血圧に分類している。前高血圧と正常血圧の集団の間には当然、血圧差がみられるが、その血圧差が最も大きいのは早朝といわれる。

24時間血圧は、診察時血圧に比べ、心血管リスクのより鋭敏な予知因子となる。24時間血圧の中でも特に早朝血圧はリスクに及ぼす影響が大きく、この点を示す成績が多数報告されている。これは、早朝血圧が心血管リスクを早期に探知する有力な指標であることを意味する。苅尾氏は、早朝の血圧レベルだけでなく、早朝や他の時間帯にみられる血圧のサージもリスク上昇因子として評価する必要があると述べた。

 早朝血圧の影響について苅尾氏が示したのは、家庭血圧を用いて早朝サージと臓器障害の関係を検討したデータである。正常血圧者と高血圧患者を含む地域住民を対象に24時間血圧を測定し、身体活動量で補正した早朝収縮期血圧の上昇度を算出、その四分位数で集団を区分して解析した。

 その結果、血圧上昇度が最大の群では、他の3群に比べて左室重量係数が有意に高かった。また、家庭血圧を用いたコホート研究では、夜間就寝前と早朝起床時の収縮期血圧の差(ME差)を早朝サージの近似値として検討したが、ME差が大きいほど左室肥大が高度であり、動脈硬化の指標である脈波伝播速度PWV)が上昇した。

 夜間の昇圧因子として睡眠時無呼吸症候群が注目されているが、苅尾氏は夜間睡眠中の酸素飽和度と血圧・心拍数を同時に測定し、無呼吸時に急峻な血圧上昇が認められることを明らかにした。一般に、急性心筋梗塞は早朝起床後に多発することが知られているが、最近の海外からの報告によれば、睡眠時無呼吸症候群患者では、深夜から早朝起床前に心筋梗塞発症がピークを示すという。
 
 今回、自治医大グループは、もうひとつ興味深い成績を発表した。早朝の高血圧とサージは交感神経活性の上昇を反映した現象と考えられるが、同じく交感神経の緊張がもたらす変化として起立時の血圧上昇がある。早朝起床時の血圧上昇には臥位から立位への姿勢変化も関係している可能性があるが、早朝高血圧患者では起立時の血圧上昇が臓器障害を促進することが明らかにされた。この成績は星出氏が報告した。

 対象は早朝収縮期血圧が135mmHg以上であり、早朝高血圧と診断された患者610例である。被験者を2群に無作為割付し、1群には通常の降圧治療に加え、早朝高血圧・サージを抑制する目的で交感神経抑制作用をもつα遮断薬またはβ遮断薬を就寝前に投与(試験群)、他方の群には通常の降圧治療だけを行った(対照群)。治療前後に診察時血圧と早朝、夜間の家庭血圧を測定するとともに、臓器障害の指標として尿中アルブミン排泄量の変化を検討した。

 なお、家庭血圧の測定には、姿勢変化に対するセンサーを備え、着座および起立に伴う血圧変化のモニターが可能な血圧計(Omron:HEM-7051T)を用いた。試験期間は6カ月である。

 対照群は試験群に比べ、高脂血症が有意に多かったが、他の背景因子には差がなく、試験薬以外の降圧薬の使用頻度もほぼ同じであった。試験開始時の背景因子で尿中アルブミン排泄量との間に有意な関係が認められたのは、年齢、糖尿病合併、早朝および夜間の収縮期血圧と、起立に伴う収縮期血圧の上昇であった。観察期間における早朝および収縮期血圧の降圧度は、試験群が対照群に比べて有意に大きかった(対照群:早朝-4.1mmHg、夜間-2.8mmHg、試験群:早朝-13.0mmHg、夜間-7.6mmHg、すべて平均値、p<0.001)。

 試験開始時における起立時の昇圧度には早朝、夜間とも両群間に有意差は認められなかったが、治療後には差が生じ、早朝の昇圧度は対照群で平均0.2mmHg減少したのに対し、試験群では2.1mmHg減少、両群の差は有意であった(p<0.01)。夜間の昇圧度は対照群で0.9mmHg減少、試験群で2.2mmHgで減少、減少は後者で大きかったが有意差はなかった。試験群の尿中アルブミン排泄量は治療により平均3.4mg/g・cre低下したが、対照群では変化がみられなかった(p<0.001)。

 早朝の収縮期血圧およびその変動と、尿中アルブミン排泄量の関係を対照群と試験群で個別に解析したところ、両群とも早朝の降圧度と立位変化の減少度は有意な影響因子であったが、夜間における降圧度と尿中アルブミン尿排泄量の関係は有意であったものの、立位変化の減少度は有意な影響を示さなかった。

 星出氏は以上の結果に基づき、早朝の高血圧と起立時の血圧上昇は、ともに尿中アルブミン排泄量を上昇させる因子であることが明らかになったとし、交感神経系に作用する降圧薬の就寝前投与により、早朝高血圧とサージを同時に抑制しうるとの見解を示した。