愛媛大学統合医科学の田原康玄氏

 近年、心臓が血液を送り出す部位(大動脈起始部)の血圧(中心血圧)が、心血管病の鋭敏な予知指標であることが明らかになってきている。これを橈骨動脈脈波から非侵襲的に測定する装置が開発され、心血管病リスク評価の新しい手段として注目されているが、測定値のどのレベルから異常と判定すべきかはまだ不明である。3月20日〜22日に大阪で開催された第73回日本循環器学会・学術集会のFeatured Researchセッションで、愛媛大学老年医学の小原克彦氏が高血圧の可能性を示す中心血圧のレベルを、愛媛大学統合医科学の田原康玄氏が、各種降圧薬の中心血圧に及ぼす影響について検討した成績を報告した。

 収縮期の血圧波は、心臓からの駆出が形成する波(駆出波)と、それが末梢血管で反射されて戻ってくる反射波によって形成される。このため、収縮期血圧の波形は単純な逆V字型を描かず、上昇時または下降時に波線の傾斜が変化する屈曲点を生じる。

 屈曲点がどの位置に出現するかは測定部位によって異なり、橈骨動脈の血圧波では、ピーク形成後の下降曲面に出現する。この屈曲点の血圧が大動脈起始部における収縮期血圧(SBP)の近似値を示すことから、橈骨動脈トノメトリを用いて屈曲点の値(SBP2)を測定する装置が開発された(オムロン ヘルスケア HEM-9000AI)。小原氏らはこの装置を用い、正常血圧者と高血圧患者を対象に上腕SBPと中心SBPの関係を検討した。

 小原氏らはまず、大動脈起始部で直接測定したSBPとSBP2の関係を、多数例を対象に検討した。その結果、両者は個々の被験者においてほぼ一致しただけでなく、全体でみても強い相関を示した。

 この結果を踏まえ、高血圧患者2806例を対象に、上腕SBPと橈骨動脈SBP2の関係を検討したところ、両者の間にも有意な相関が認められた。さらに、全被験者のうち降圧薬治療を受けていない1049例を対象に解析した結果、一般的な高血圧診断基準値である上腕SBP140mmHgに相当するSBP2は、130mmHgであることが明らかになった。

 この結果はSBP2が130mmHg以上であれば高血圧の可能性が高いことを示すが、小原氏は、これを診断基準として確立するためには、SBP2と心血管病リスクの関係を長期に追跡する必要があると述べた。
 
 中心血圧は高血圧治療を評価する指標にもなりうると考えられるが、降圧薬の中心血圧に及ぼす影響については、まだ十分な情報がない。田原氏らは症候性心血管病の既往がない健康診断受診者657人を対象に、各種降圧薬の作用について検討した。被験者の57%が高血圧に罹患しており、29%が降圧薬による治療を受けていた。この研究でも中心SBPの代替指標として橈骨動脈SBP2が用いられた。

 この研究においても、上腕SBPと橈骨動脈SBP2の間には強い相関が認められた。そこで次に、橈骨SBP2と上腕SBPの差(ΔSBP)に影響を及ぼす因子について解析したが、身長および心拍数とΔSBPは有意な逆相関を示した。

 降圧薬も有意な因子であったが、その影響は薬剤によって異なり、Ca拮抗薬、ACE阻害薬、ARB、利尿薬、α遮断薬はΔSBPを減少させるのに対し、β遮断薬は逆にΔSBPを増大させることが示唆された。降圧薬によるΔSBPの変化は、中心血圧と上腕血圧に対する降圧効果の違いを反映する。

 田原氏はこの成績にもとづき、中心血圧に対する降圧効果は薬剤によって異なる可能性があり、降圧治療を正しく評価するためには、上腕SBPとともに橈骨動脈SBP2を測定する必要があると締めくくった。