熊本大大学院循環器病態学教授の小川久雄氏

 「JPADサブ解析の結果は、今後の欧米における心血管治療に影響を与えるかもしれない」。3月20日から大阪で開催中の第73回日本循環器学会総会・学術集会の最新臨床試験報告(LBCT1)セッションでは、JPAD試験の総括報告が行われ、熊本大大学院循環器病態学教授の小川久雄氏(写真)は自負を込めてこう語った。続いてコメントスピーカーとして登壇した国立循環器病センター内科心臓血管部門部長の北風政史氏は、JPAD研究の意義を高く評価した上で、試験デザインなど改良すべきポイントを指摘した。

 JPAD(Japanese Primary Prevention of Atherosclerosis with Aspirin for Diabetes)は、2型糖尿病の日本人を対象に、低用量アスピリンによる動脈硬化性イベント一次予防効果を検討した大規模臨床試験。2008年11月に米ニューオーリンズで開催された米国心臓協会・学術集会(AHA2008)で本試験の最終結果が発表された。

 同試験は、無作為化オープンラベル・エンドポイントブラインド比較試験。国内163施設で2002年から2005年にかけて被験者を受け付け、低用量アスピリン群(81mgまたは100mg/日、1262人)と非アスピリン群(1267人)に無作為割り付けして、2008年4月までフォローアップした。

 被験者の組み入れ基準は30歳から85歳の2型糖尿病患者とし、冠動脈疾患、脳血管疾患を含むアテローム性動脈硬化症、心房細動、重症の胃・十二指腸潰瘍などの既往がある患者、抗血小板薬、抗凝固薬治療を受けている患者は除外した。

 1次エンドポイントとして規定された総動脈硬化症イベントは、突然死、冠動脈・脳血管・大動脈に起因する死亡、非致死性心筋梗塞、不安定狭心症、新規発症の労作性狭心症、非致死性脳梗塞・脳出血、一過性脳虚血発作または非致死性大動脈・末梢血管疾患。2次エンドポイントは、1次エンドポイントとその組み合わせ、および全死亡とした。有害事象は、消化管イベントと脳出血以外の出血性イベントを含めて解析した。

 結果、低用量アスピリンは、1次エンドポイントの総動脈硬化性イベントの有意な低下はもたらさなかったものの、2次エンドポイントのうち冠動脈疾患による死亡と脳血管疾患による死亡の有意な低下をもたらしたほか、65歳以上のサブグループにおいて、総動脈硬化性イベントを有意に大きく低下させた。

 小川氏は、「欧米の患者は、国内の65歳以上の患者背景と類似したところがある」とした上で、JPAD試験の65歳以上を対象としたサブグループ解析の結果が、今後の欧米の治療に影響を及ぼす可能性があると示唆した。

 続いてコメントに立った北風氏は、JPAD試験について「デザインなどが明快・簡潔であり、世界でも報告がなかった上に社会への寄与度が高い」とJPAD試験を高く評価した上で、試験結果について、「有意差がなかったからといって、有効でないというわけではない。むしろ『有効である可能性がある』と表現すべき」と述べた。

 ではなぜ有意差が出なかったのか? 北風氏は、「理由の1つはサンプルサイズにある」と説明する。もともとJPAD試験は、動脈硬化症イベントが、年間1000人中52人に起きるという推定の基にデザインされたものだったが、実際のイベントははるかに少なかった。

 「このような場合、中間解析を行い、その結果に応じてサンプルサイズを増やしたり、観察期間を延長することなどが不可欠」(北風氏)という。同氏はさらに、「対照群として無投与群ではなく偽薬群を置くことや、アスピリンの効果を説明するためには、1次エンドポイントの動脈硬化性イベントから非致死性脳出血を除くことなどが必要」と指摘した。

 これに対して小川氏は、「久山町のデータなどかなり昔の資料を基にデザインしたことや、試験では高血圧などのコントロールが予想以上に良好に行われた」と説明。有意な効果を示すのに、試験デザインや試験の進め方が重要であることが改めて浮き彫りになった。