スウェーデンSahlgrenska大学のBjorn Dahlof氏

 第72回日本循環器学会総会・学術集会のFeatured Research Session「New Clinical Aspects for Hypertension」で、スウェーデンSahlgrenska大学のBjorn Dahlof氏は、「Hypertension 2008 More than mmHg」と題したキーノートレクチャーを行い、血圧コントロールを超えた治療の重要性を強調した。

 Dahlof氏はまず、「心血管疾患は死因として世界的に重要性を増しており、高血圧はその重要なリスクファクターとなっている。高血圧治療では降圧が重視されているが、目標は単に血圧を下げることではなく、心血管疾患の進行を阻止し、標的臓器障害を改善し、心血管イベントから保護することにある」と指摘した。

 降圧による心血管イベント抑制効果は多くの臨床試験で示されている。Lewingtonらが行った61研究(対象者100万人)のメタ解析では、収縮期血圧2mmHgの低下によって虚血性心疾患による死亡のリスクは7%、脳卒中による死亡のリスクは10%減少することが示されている。

 しかし、血圧値には、通常の測定方法による上腕血圧のほかに脈圧家庭血圧24時間血圧ABPM)、中心血圧動脈波などがあり、これらの血圧が標的臓器障害に、より強く関与している可能性があるとDahlof氏は述べた。

 ASCOT試験のサブ解析であるCAFE試験では、アムロジピン群とアテノロール群を比較すると、上腕血圧では差がないのに、中心動脈圧はアムロジピン群で有意に低いことが示され、この差が臨床的結果の差に関与していることが示唆されるという。

 LIFE試験では、主要エンドポイント(心血管死、脳卒中心筋梗塞)に関し、ロサルタン群でアテノロール群と比較して13%のリスク減少がみられているが、ロサルタン群では中心動脈圧がアテノロール群と比較して低かったことが示されている。

 また、最近報告されたMARVAL2試験では、バルサルタンとアムロジピンを比較しており、バルサルタン群では脈波速度(PWV)が低く、微量アルブミン尿の抑制が大きかったことが示されている。

 日本人ハイリスク高血圧患者を対象に、バルサルタン投与群と非投与群を比較したJIKEI HEART Studyでは、バルサルタン投与群で過去の高血圧大規模試験では最大に低い131/77mmHgの降圧を達成した(降圧値は両群で同等)。

 一方、主要エンドポイント(脳卒中、心筋梗塞、うっ血性心不全あるいは狭心症による入院、解離性動脈瘤、下肢の閉塞性動脈硬化症腎疾患の複合)に関して、バルサルタン投与群では非投与群と比較して39%の大きなリスク減少がみられている。

 これらの結果は、バルサルタンの降圧を超えた効果を示唆しており、こうした効果には、AT1受容体の遮断、ACEを介さないA-II産生の遮断、AT2受容体に対する刺激などの機序、さらに左室肥大、IMT、微量アルブミン尿の改善、糖尿病新規発症、心房細動の抑制などが関与していることが考えられる、との見解をDahlof氏は示した。

 糖尿病を合併していない高血圧患者9995人を対象にバルサルタンとアムロジピンを比較したVALUE試験では、バルサルタン群において糖尿病新規発症は有意に少なかった。また、バルサルタンは、最近、アルツハイマー病のモデル動物において、β-アミロイドたんぱくの蓄積を抑制し、学習能力を改善させることが示された。これらもARBの降圧を超えた効果を示唆している。

 JIKEI HEART Studyでは、バルサルタン群において、心血管死・心血管イベント発症は39%、脳卒中・TIAは40%、心不全による入院は47%、狭心症による入院は65%のリスク減少がみられており、これらの結果は、心血管疾患発症から死亡に至るCV ContinuumにおけるRA系抑制の重要性を示している。

 RA系治療薬の今後についてDahlof氏は、第3世代薬としてレニン阻害薬、第4世代薬としてAT2受容体刺激薬が課題になると言う。

 これまでの大規模臨床試験の結果では、脳卒中の抑制に関しては、ARBCa拮抗薬利尿薬の方が、ACE阻害薬β遮断薬よりも優れることが示されている。また、降圧から独立した脳卒中の抑制には、血中A-IIレベルの上昇によるAT2受容体の刺激が関与していることが動物研究で示されており、26試験(対象者数20万人以上)のメタ解析の結果でもA-IIレベルの上昇をもたらす薬剤に脳保護効果が認められている。AT2受容体刺激は、動脈硬化、脳卒中、心筋梗塞、糖尿病性腎症、創傷、炎症など多様な病態に対して作用を有すると考えられている。

 Dahlof氏は、「高血圧治療において、降圧は現在も基本となるが、ARBにみられるような降圧を超えた効果が重要であり、これに加えて他のリスクファクターに対する対応や、病態の全体的な評価に基づいてスタチンやアスピリンなどを適切に併用していくことが重要になる」と締めくくった。