富山大学内科学第二教授の井上博氏

 CHADS2スコアは、心房細動による塞栓症のリスク評価に汎用されているが、日本人患者においても有用な指標であることが、新たに確かめられた。日本人の心房細動患者を対象にCHADS2スコアを使って塞栓症リスクを層別化した研究の成果で、第72回日本循環器学会総会・学術集会で、富山大学内科学第二の井上博氏がシンポジウム「Recent Strategies for total Management of Atrial Fibrillation」で報告した。

 CHADS2は、うっ血性心不全CHF)、高血圧症HT)、年齢(Age:75歳以上)、糖尿病(DM)をそれぞれ1点、脳卒中既往(Stroke)を2点としてカウントするもので、これによって塞栓症リスクを低リスク、中リスク、高リスクと層別化する。高血圧と糖尿病は治療中の場合も点数化し、心不全には既往も含む。2001年にJAMA誌に発表された研究をベースとしている(JAMA 2001,285;2864-2870)。

 AFISAPFACCCPACC/AHA/ESCなどのスキームでは、いずれも脳梗塞を高リスクと位置付けているが、高血圧や糖尿病については、中リスクにするものもあれば高リスクと位置づけるものもあり、一定していない。また、Framinghamは血圧と年齢が細かく分類されているため、手元に対応表がなければ使いにくいという問題がある。これに対してCHADS2は、各リスク因子を点数化するスキームで、比較的覚えやすく、リスク因子の累積も加味できるため、使いやすいと考えられている。

 CHADS2スコアは、各リスク因子の累積で0点から6点まであり、点数が増えていくにしたがって、発生頻度が指数関数的に増えていくことが知られている。0点であれば、脳塞栓症の発症は年間2%弱、すべてのリスクがあると年間18%であると報告されている。原著論文では0、1点を低リスク、2、3点を中リスク、4〜6点を高リスクとしていたが、最近の多くの文献では、0点のみを低リスクとし、1、2点を中リスク、3点以上を高リスクと分類しており、今回の研究もこの新たな分類で実施した。

 ただし、これまで発表されているデータはすべて欧米人を対象として得られたデータだ。今回、「欧米人と日本人ではさまざまな疾患で様相を異にする。このCHADS2スコアを日本人に外挿してよいか、十分に評価されていない」(井上氏)のが研究のきっかけだ。

 今回、研究の対象としたのは、非弁膜症性心房細動患者515例(平均年齢69歳)で、CHADS2スコアと(1)経食道心エコー図から求めた左房機能、(2)凝血分子マーカー、(3)脳梗塞、末梢塞栓症の発生率、の関係を検討した。

 非弁膜症性心房細動患者515例(平均年齢69歳)における左房機能との関係については、CHADS2スコアが高まるにつれてモヤモヤエコー(spontaneous contrast echo)のグレードが有意に高くなることが明らかとなった(p<0.05)。左心耳血流速度についてはCHADS2スコアが高まるにつれて有意に低下し(p<0.05)、CHADS2スコアでみたリスク層別化は左房機能をよく反映しているとした。

 非弁膜症性心房細動患者591例と洞調律129例を対象に、凝血分子マーカーのひとつで線溶系マーカーであるDダイマー値について解析した結果、年齢と性別を調整した洞調律例の場合、CHADS2スコアが高くなるにつれて有意にDダイマー値が高まること、心房細動でワルファリン投与を受けていない患者ではCHADS2スコアが高まるにつれてDダイマー値が高まることが明らかとなった(p<0.001)。

 一方、心房細動でワルファリン投与を受けている患者(INRを1.7〜1.8にコントロール)の場合、CHADS2スコアが高まるにつれてDダイマー値は高まり、ワルファリンにより無治療群よりもDダイマー値は下がっていた。これらのことから、CHADS2スコアと線溶系マーカーはよく相関したといえる。なお、CHADS2スコアと相関しないと考えられているβTG値(血小板機能)については、今回の研究でも相関は認められなかった。

 最後に、CHADS2スコアとリスク別の血栓塞栓症発生頻度を比較した結果、低リスク、中リスク、高リスクと高まるにつれて塞栓症の発生頻度が高まることが確認された。各リスクにおける塞栓症の発生頻度は、欧米で得られている値とほぼ同等だった。

 今回の左房機能、凝固・線溶系、血栓塞栓症発生率とCHADSスコアとの結果から、井上氏は、CHADS2スコアによる塞栓症のリスク層別化は日本人にも応用可能と結論した。そして、日本人のCHADS2スコア高リスク群は、無治療で4〜5%の発生率だったことから、日本人は決して塞栓症の発生率は低くないと指摘した。

 なお、CHADS2スコアで低リスクとされた症例118例において、高度モヤモヤエコーや左心耳血流速度が20cm/s以下の症例が15.2%あったことから、低リスクと診断されても左房機能が低下している例があることが明らかになった。井上氏は、こういった患者をいかに抽出していくかが今後の課題だと強調した。