大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学の藤原義和氏

 ラット腹部大動脈瘤モデルにおいて、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)バルサルタンによるアンジオテンシンIIの阻害が、腹部大動脈瘤の進展を抑制しうるか否かを検討したところ、バルサルタン投与群では非投与群に比べ、腹部大動脈瘤の進展が有意に抑制され、各種MMPとNF-κB発現も同様に抑制されたことが明らかになった。大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学の藤原義和氏らの研究成果で、第72回日本循環器学会総会・学術集会で報告された。

 アンジオテンシンIIは、血管の炎症を誘導すると共に動脈硬化や動脈瘤進展に関連する直接的影響を血管壁に及ぼす。これらアンジオテンシンIIの作用は転写因子NF-κBを活性化させ、様々なサイトカインやケモカインの転写を刺激する。

 一方、炎症に続くマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)の誘導は動脈瘤発症の主要因であると考えられている。これらのMMPはNF-κBにより転写が調節されていることから、NF-κB活性化に焦点を当てた腹部大動脈瘤治療の新たな戦略の確立は理に適っている。

 藤原氏らの研究グループは、実験動物として10週齢のWister系雄性ラットを用い、エラスターゼ注入により腹部大動脈瘤を作成して2群に分け、一方には賦形剤を(対照群)、もう一方にはバルサルタン1mg/kg/日を投与して4週間飼育した。
 
 その結果、4週後の両群の収縮期血圧に有意差はみられなかった。一方、腹部大動脈瘤のサイズは実験開始から1週間ごとの測定において、すべてバルサルタン投与群で有意に小さかった(p<0.05)。

また、MMP-2、3、9、12と細胞接着因子ICAMのmRNA発現は、対照群に比べ、バルサルタン投与群で明らかに弱く、デンシトメトリーによる相対濃度はバルサルタン投与群で有意に低かった(p<0.01)。さらにNF-κBの発現、相対濃度も同様の結果だった。また、免疫組織学検討では対照群に比し、バルサルタン投与群で有意に(p<0.05)マクロファージの浸潤が少なかった。

 次にMMP誘導におけるマクロファージの関与を検討するため、腹部大動脈瘤作成3日後にラット腹腔からマクロファージを採取し、PCRにてMMP-2、9のmRNAを調べたところ、MMP-2、9共にバルサルタン投与群で有意の抑制が認められた(p<0.05、0.01)。

 以上の結果から藤原氏は、「バルサルタンは腹部大動脈瘤の進展を有意に抑制することが示された。この効果は降圧効果とは独立して認められた。このバルサルタンの腹部大動脈瘤進展抑制効果は、MMP、ICAM発現、NF-κB活性化抑制を介するマクロファージ浸潤抑制によるものと考えられ、ARB・バルサルタンは腹部大動脈瘤を合併する高血圧患者に有用な薬剤であることが示唆された」と結んだ。