研究を行っている東北大学循環器病態学の柴信行氏(左)と多田智洋氏(右)

 駆出分画率(EF)が悪いと心不全の予後は悪いことが知られている。しかし、駆出分画率が良い安定心不全患者と悪い患者の予後を比較したところ、1年生存率には差があったものの、5年生存率では差がなくなることが明らかになった。東北大学循環器病態学の多田智洋氏、柴信行氏らのグループが実施した駆出分画率別の心不全のリスク因子と生存率についての研究成果で、3月28日から30日まで開催された第72回日本循環器学会総会・学術集会の一般口演で報告された。

 同グループは、CHART(Chronic Heart Failure Analysis and Registry in Tohoku District)スタディと呼ぶ疫学研究を進めており、2000年から、東北18都市26施設において、器質的心疾患患者で、左室駆出分画率LVEF)が50%未満か左室拡張末期径LVDD)が55mm以上である安定期の患者1154例を登録している。

 このうち、LVEFが50%未満の収縮型心不全(SHF)369例、LVEF50%以上の拡張型心不全(DHF)357例を対象に解析した。先天性心疾患、心臓弁膜症、透析患者は除外した。

 患者背景をみると、年齢、女性比率はDHFで有意に高く、ヘモグロビン値、NYHA、BNP、LVDDはSHFで有意に高かった。またDHFでは、左室肥大、高血圧、心房細動を持つ割合がSHFに比べて高く、逆に虚血、心室頻拍はSHFに比べて低かった。

 死亡率を解析した結果、1年目の全死亡はDHFで16例、SHFで34例、粗死亡率はそれぞれ4.5%、9.2%と有意な差があった(p=0.04)。しかし、5年目の全死亡は、DHFが90例、SHFが99例で、粗死亡率は25.2%、26.8%とほとんど変わらないことが明らかになった。

 カプラン・マイヤー曲線による1年生存率でみても、DHFが0.954、SHFが0.906で、DHFが有意に高かった(p=0.012)が、5年生存率では、DHFが0.684、SHFが0.638と変わらなかった(p=0.32)。

 多変量解析を行った結果、SHFの予後因子は、心室頻拍(HR=1.60、95%CI 1.07-2.40、p<0.05)、虚血(HR=1.59、95%CI 1.05-2.42、p<0.05)、BNP(HR=1.01、95%CI 1.01-1.01、p<0.001)、eGFR(HR=0.99、95%CI 0.99-0.99、p<0.05)だった。

 またDHFでは、糖尿病(HR=2.36、95%CI 1.46-3.82、p<0.001)、男性(HR=1.98、95%CI 1.21-3.22、p<0.01)、BNP(HR=1.01、95%CI 1.01-1.01、p<0.001)、ヘモグロビン値(HR=0.75、95%CI 0.68-0.84、p<0.001)、アンジオテンシン転換酵素(ACE)阻害薬/アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)の投薬(HR=0.59、95%CI 0.37-0.93、p<0.05)が予後因子だった。

 多田氏は、「患者登録を始めた2000年頃は、DHF(diastolic Heart failure)の概念がまだ確立しておらず、治療法も分からなかった。今回の結果から、駆出分画率が高いDHF患者は、高齢、女性で、貧血があり、高血圧や心房細動の既往を有する傾向があり、糖尿病治療、貧血治療、ACE阻害薬やARBの使用などについてメリットがあると考えられたが、さらに研究が必要だ」と締めくくった。