日本人の低リスク安定狭心症に対する経皮的冠動脈形成術(PCI)の先行療法は、見直しを迫られていることが明らかになった。日本人の安定労作性狭心症研究(J-SAP)の成果の1つで、今大会の会長を務める藤原久義氏(写真)が3月24日、セッション「Late Breaking Clinical Trials in Japan」で発表した。

 低リスク安定狭心症に対しては、欧米では薬物治療を先行する治療法が主流であり、日本のPCI先行療法は独特のものと見られている。日本の冠動脈疾患の患者数は米国の3.7分の1であるにも関わらず、患者当たりの冠動脈造影検査は米国の3.3倍、患者当たりのPCIは米国の2.2倍となっているからだ。ちなみに患者当たりの冠動脈バイパス術(CABG)は、米国の2.7分の1に過ぎない。

 研究グループは、薬物治療を先行する治療法とPCI先行療法を比較し、どちらが勝るのか調査を行った。まず、低リスク安定狭心症の382例を対象に、3.5年の長期予後を比較検討した。382例のうち、薬物先行療法は180例、PCI先行療法は182例だった。両者に年齢や性別、病変数、狭心症の症状の程度、使用した薬物などで差はなかった。

 その結果、薬物療法群で経過中に狭心症の症状が現われPCIまたはCABGが必要になったのは9%だった。これに対し、PCI先行療法では、実に33%にPCIの再試行あるいはCABGが必要だった。

 また、3.5年間の心疾患死亡と心疾患死亡+非致死性急性冠症候群の発症頻度は、薬物先行療法がそれぞれ1.6%と2.1%だったの対し、PCI先行療法では2.6%と4.7%で、PCI先行療法の方が高い傾向にあったが、有意差はなかった。加えて、1年後の狭心症症状の改善度を比較したが、やはり両群で差は確認されなかった。

 PCI先行療法が長期予後を改善しない理由について藤原氏は、「長期予後を規定する致死性・非致死性急性冠症候群の大部分が、PCIの対象となる有意狭窄からではなく、PCIの対象とならない軽度狭窄あるいは狭窄のない冠動脈から突然発症するためであろう」と考察した。長期予後の改善では、両者に差が見られなかったが、医療費の面では、薬物先行療法の方が安いというメリットが明らかになった。たとえば1年目と2年目の医療費は、薬物先行療法の場合86万円と37万円だったが、PCI先行療法では376万円と112万円だった。

 これらの結果から藤原氏は、「低リスク安定狭心症に対しては、欧米型の薬物先行療法に切り替えていく必要があるのではないか」と指摘したが、「現在進行中のJ-SAP2研究(低リスク安定狭心症に対する無作為比較試験)の結果を待ってから結論を出したい」と結んだ。日本独特のPCI先行療法は、見直しを迫られていることは疑いない。