国立長崎医療センター整形外科の泉政寛氏

 下肢人工関節置換術後の静脈血栓塞栓症VTE)発症率は、関節リウマチRA)患者と変形性関節症OA)患者で有意差はないことが報告された。一方、出血事象は、RA患者で多い傾向が確認されたことから、RA群で抗凝固療法を実施する際には注意が必要であることが示された。国立長崎医療センター整形外科の泉政寛氏らが、4月26日から28日まで東京で開催された第56回日本リウマチ学会(JCR2012)で発表した。

 下肢人工関節置換術後は、VTEの合併症に留意する必要がある。VTEの予防法としては様々な抗凝固療法が行われている。今回、泉氏らは、下肢人工関節置換術後のVTEの発症や出血事象について、RAとOAを比較する前向きの多施設共同比較研究を行った。

 対象は、2008年7月〜2009年3月末までに同科で下肢人工関節置換術を受けた2211人のうち、追跡可能だった2104例。人工膝関節置換術(TKA)例は1295人(OA群1090人、RA群205人)、人工股関節置換術(THA)例は809人(OA群756人、RA群53人)だった。

 検討項目は、術前・術後のD-dimerの値(血漿)、HIT抗体(抗血小板第4因子/ヘパリン抗体)陽転化率、VTE発症率、出血事象だった。なお、VTE発症率は、下肢人工関節置換術を実施した10日(±2日)に下肢静脈超音波検査を実施し、深部静脈血栓症(DVT)の有無を評価した。同時に、D-dimerの値やHIT抗体などを測定した。術後25(±4日)には、VTEの有無、生死、出血イベントについて最終評価を行った。

 検討の結果、TKA例、THA例ともにVTE予防法として理学療法を選択している患者が一番多く、42.1〜52.8%だった。TKA例でXa阻害薬を選択してる患者は、OA群が25.3%、RA群が39.0%。THA例ではOA群が30.6%、RA群が32.1%だった。

 TKA例におけるD-dimer値の変化をみると、術前はRA群が2.7μg/mLで、OA群が1.0μg/mLとなり、RA群で有意に高値だったが(P<0.0001)、術後はRA群が7.1μg/mLに対し、OA群は7.9μg/mLとなり、OA群で有意に高値だった(P=0.0364)。

 同様に、THA例におけるD-dimer値の変化をみると、TKA例と同様の傾向が見られ、術前ではRA群が有意に高値だったが(2.0μg/mL 対 0.9μg/mL、P<0.0001)、術後はOA群で高い傾向だった(5.1μg/mL 対 6.1μg/mL、P=0.0546)。

 HIT抗体陽転化率は、RA群よりもOA群で高かった。

 一方、VTE発症率については、TKA例、THA例ともにOA群とRA群間に有意差は認められなかった。TKA例におけるDVT発症率はOA群が24.3%、RA群が23.4%(P=0.8292)、THA例ではOA群が13.1%、RA群が7.5%だった(P=0.2921)。

 さらに、出血事象について検討したところ、THA例での出血事象はOA群3.2%、RA群9.4%となり、RA群で有意に多かった(P=0.0258)。TKA例では、OA群3.1%、RA群5.9%となり、RA群で出血事象が多い傾向が確認された(P=0.0634)。

 加えて、Xa阻害薬がDVT発症率に与える影響を見ると、OA群、RA群ともに、Xa阻害薬使用群はXa阻害薬未使用群と比べ、DVT発症率が有意に低かった。しかし、出血事象は、OA群(Xa阻害薬使用群5.5.% 対 Xa阻害薬未使用群2.2%)、RA群(同11.3% 対 3.7%)ともにXa阻害薬使用群で有意に多かった。

 これらの結果から泉氏は、「RA患者とOA患者におけるDVT発症率に有意差が見られず、Xa阻害薬を使用することでDVT発症率が有意に低下した。しかし、Xa阻害薬を使用すると出血事象が有意に増加するので、とくに出血事象の多いRA患者では注意が必要」と指摘した。

(日経メディカル別冊編集)