東京医科歯科大学の針谷正祥氏

 生物学的製剤を使用している日本人RA患者の発癌リスクは、一般人口に比べて低いことが報告された。RA患者1万人余を対象に行われたSECURE研究により明らかになった。東京医科歯科大学の針谷正祥氏が、SECURE研究グループを代表して、7月17日から20日まで神戸で開催されている日本リウマチ学会(JCR2011)で発表した。

 針谷氏は冒頭、RAと悪性腫瘍との関連性について、これまでの知見を振り返った。それによると、RAにおいては喫煙関連癌や非メラノーマ皮膚癌のリスクは上昇し、大腸癌のリスクは低下することが知られている。また、RAにおける悪性リンパ腫のリスクは健常人の2から3倍あり、固形癌全体のリスクは同等であることが分かっている。また、生物学的製剤については、当初のメタ解析で薬剤使用と悪性腫瘍の関連が示されたが、その後のメタ解析や観察研究では、関連性は否定されている。結局、発癌は遺伝、環境、さらには併用する薬剤などに影響されるため、生物学的製剤と悪性腫瘍の関連を議論するには、他地域、多民族で検討し、それぞれのデータを比較し統合していくことが必要とのコンセンサスに至っている。

 SECURE(Safety of Biologics in Clinical Use in Japanese Patients with Rheumatoid Arthritis in Long-Term)研究は、こうした問題認識の下で日本リウマチ学会主導で実施された登録研究で、日本全国の332施設が参加している。2008年6月から2013年3月までをベースに、全体の研究期間は2018年3月までの計画で進んでいる。

 患者の登録条件は、日常診療で生物学的製剤を使用している患者で、登録時に20歳以上となっている。登録方法はインターネットのサイトを利用。データは、登録時から5年間前向きに収集し、年齢、性別、生物学的製剤使用状況、悪性腫瘍の有無、追跡状況などを把握することになっている。また、悪性腫瘍の発現が確認された場合は、2次調査を実施する。

 今回は、2011年3月31日現在のフォローアップ状況をもとにした解析結果が報告された。この時点での登録症例数は、1万1516人。追跡中は85.5%で、追跡不能または中止は11.6%、死亡は2.9%となっている。平均観察期間は34.2±21.6月、女性の割合は81.1%、生物学的製剤の開始時の平均年齢は56.6±13.3歳だった。

 生物学的製剤の使用状況をみると、1剤が73.4%、2剤が21.2%、3剤が4.7%、4剤が0.7%だった。各薬剤別では、インフリキシマブ(IFX)が5751例、エタネルセプト(ETN)が6341例、アダリムマブ(ADA)が1526例、トシリズマブ(TCZ)が1595例で計1万5213例だった(重複あり)。

 2011年3月31日までの観察期間中の悪性腫瘍の発現数は、すべての悪性腫瘍が207例(1.3%)、非造血器悪性腫瘍が163例(1.4%、重複癌8例含む)、造血器悪性腫瘍が44例(0.4%、重複癌8例含む)だった。造血器悪性腫瘍の内訳は、悪性リンパ腫が41件(非造血器癌を併発が3例)、白血病2例、多発性骨髄腫1例となっていた。

 年齢調整後の発現率(ASR)を求めたところ、すべての悪性腫瘍は323(262‐394)、非造血器悪性腫瘍は272(213‐341)、造血器悪性腫瘍は51.5(36.4‐70.9)となった。日本の一般人口のデータ(2004年全国がん罹患数・率推定値)では、ぞれぞれ514、489、48.9であることから、全悪性腫瘍の発現率は生物学的製剤使用のRA患者コホートの方が低値であった。非造血器悪性腫瘍と造血器悪性腫瘍別で見ると、前者は日本の一般人口より低値であり、後者は同等の水準という結果であった。

 問題だった悪性リンパ腫については、生物学的製剤の使用コホート(SECURE研究)と非使用コホート(東京女子医大のIORRA研究)の間で、標準化発現比(SIR)による解析を行った。その結果、使用コホートが女性で5.1(3.3‐7.0)、男性で3.9(1.7‐6.6)だったのに対し、非使用コホートがそれぞれ6.0(3.3‐10.1)、6.2(2.3‐13.5)と、コホート間で同等であることが分かった。

 わが国においても、生物学的製剤の使用と癌発現との関連を解析した結果が報告されたのは意義深く、結果として癌の発現率が、全悪性腫瘍において日本の一般人口の発現率より低値だったという結果は医療現場にとっての朗報となろう。また、最も注意しなければならない悪性リンパ腫においても、生物学的製剤の有無にかかわらず、発癌リスクが同等だったことは、生物学的製剤のリスク・ベネフィットを考える上で重要なデータになるに違いない。

(日経メディカル別冊編集)