産業医科大学医学部第一内科の名和田雅夫氏

 TNF阻害治療により関節リウマチ(RA)患者の死亡率が低下することが、米国のMichaudらにより報告されている。産業医科大学医学部第一内科の名和田雅夫氏らは、この現象には、動脈硬化抑制的に働く善玉サイトカインであるアディポネクチン(AN)が関与しているのではないかと推測。抗TNFα薬インフリキシマブ(IFX)のANへの影響を検討した結果、IFXには疾患活動性制御とは独立したAN増加作用があり、インスリン感受性亢進作用もあることを見出した。成果は第52回日本リウマチ学会のワークショップ「インフリキシマブ1」で報告された。

 本検討の対象は、同科にてIFX治療を行ったRA患者97例(うち男性13例)である。平均年齢54.2±12.6歳、RA罹病期間は8.5±1.5年であり、肥満高血圧などの動脈硬化危険因子は認められなかった(BMI 21.1±2.8kg/m2、SBP 123.9±4.3mmHg)。

 これらの患者におけるIFX投与前および治療1年後の血中AN値を比較すると、治療後には有意なAN値の増加が認められた(p<0.01)。また、HDL-コレステロール(HDL-C)値の有意な上昇と、これに起因すると思われる総コレステロール(TC)値の上昇も認められた(ともにp<0.05)。

 ANの増加率はIFX投与後のDAS28値やステロイド量の多寡によって有意差がなく、ANの増加はIFXによる臨床症状の軽減とは独立した機序に基づく現象と考えられた。また、年齢血圧BMITCHDL-CCRP、頸動脈の内膜中膜厚(IMT:動脈硬化の指標)とも無関係であり、動脈硬化の程度に関わらずすべての患者で、ANの増加がもたらされる可能性が示唆された。

 一方、ANには抗動脈硬化作用だけでなく、インスリン抵抗性の改善作用もあることも知られている。そこで名和田氏らは、IFX投与前後のインスリン感受性の変化についても検討を行った。その結果、わずか16例の検討にもかかわらず、インスリン感受性の指標である22週時のIRIとHOMA-Rは、いずれも有意な改善を示した(それぞれp=0.048、p=0.025)。

 以上より、IFXはRAの症例背景や疾患活動性にかかわらずAN産生を増加させ、インスリン抵抗性の改善と動脈硬化の抑制に働くことが明らかとなった。TNF阻害薬の抗動脈硬化作用の可能性については、過去にも報告されているが、その機序は炎症の抑制を介したものと推測されていた。今回の報告は、抗炎症作用とは独立したAN増加機序の存在を示唆するとともに、糖代謝の改善という新たな可能性も示唆するものである。

 また、近年はIFXの関節破壊阻止効果が注目されているが、名和田氏らは、IFXは破壊を阻止するだけでなく、骨の自己修復能力を能動的に高めている可能性があることを本学術集会において報告している。炎症や破壊という攻撃に対して守りを固めるだけでなく、生体の機能に能動的に働きかけるIFXへの期待はますます広がることになろう。