東京大学医学部22世紀医療センター関節疾患総合研究講座の吉村典子氏

 変形性関節症(OA)に関する世界最大規模の疫学研究ROAD(Research on Osteoarthritis Against Disability)プロジェクトで、わが国には50歳以上で、痛みを伴う変形性膝関節症(膝OA)患者が820万人、痛みを伴う変形性腰椎症腰椎OA)患者が1020万人いると推定されることが明らかとなった。同プロジェクトを進めている東京大学医学部22世紀医療センター関節疾患総合研究講座の吉村典子氏が、第52回日本リウマチ学会のシンポジウム「変形性関節症の基礎と臨床」で報告した。

関節症は老衰に次いで「要支援」となる原因の第2位(2004年厚労省国民生活基礎調査)を占め、より積極的な予防策が望まれるところだが、OAに関する大規模な疫学調査はこれまでほとんど行われていなかった。

 ROADプロジェクトは、地域特性の異なる全国4地域でのコホート調査により、OAの発生率、有病率、転帰・予後の検討、危険因子の同定、ゲノム解析などを行う研究で、2005年から始まった。参加者は現在、4地域合わせて約3500人を数え、フラミンガム研究の2倍以上で世界最大規模。しかも、調査は精細かつ厳密に行われており、信頼性の高い縦断データが得られるものと期待されている。地域コホートに加えて臨床コホート、すなわち疾病登録研究も進められ、OAの自然経過や増悪因子などの解析が行われる。

 今回は、ベースライン調査が終了した地域コホート(解析対象は平均年齢72歳の2843人)の結果の一部が報告された。それによると、X線上の変形所見から診断された膝OAの有病率は男性で44.6%、女性で66.0%と高率だった。痛みを有する膝OAも男性25.4%、女性38.9%という高い有病率を示した。

 この結果を日本の人口構成に当てはめると、わが国には50歳以上で、X線上の膝OA患者は2400万人(男性840万人、女性1560万人)、X線上の膝OAで痛みを有する患者が820万人(男性210万人、女性610万人)いると推定された。

 腰椎OAについても同様に検討すると、X線上の変形所見より診断された腰椎OAの有病率は男性で82.6%、女性で67.4.%と、膝OAよりもさらに高率だった。痛みを有する腰椎OAの有病率は男性24.3%、女性34.2%だった。これより、わが国には50歳以上で、X線上の腰椎OA患者が3510万人(男性1850万人、女性1660万人)、X線上の腰椎OAで痛みを有する患者が1020万人(男性450万人、女性570万人)いると推定された。

 性、地域特性の関連について、年齢調整ロジスティック回帰分析を行うと、膝OAのリスクは、女性が男性の3倍、山村部在住が都市部在住の2.6倍高いことが分かった。腰椎OAのリスクは逆に、女性が男性より60%減、山村部在住が都市部在住より20%減となった。

 年齢、体格因子などについても検討された。膝OAのリスクは、年齢は1歳上がるごとに男性で8%、女性で11%、BMIは1上がるごとに女性で11%上昇した。腰椎OAのリスクは、年齢が1歳上がるごとに男性で7%、女性で6%、BMIが1上がるごとに男性で9%、女性で4%上昇した。

 さらに、最も長く就いていた職業における主な姿勢や動作との関連を調べると、膝OAのリスクは男女とも「立つ」「歩く」「坂道を上る」「重い物を持つ」で、腰椎OAのリスクは女性の「坂道を上る」「重い物を持つ」で有意に高くなった。

ROADプロジェクトでは今後、ベースライン調査のさらに詳細な解析を進め、OAのリスクファクターについて仮説を提唱する考え。また、追跡調査によるOAの累積発生率とその影響要因を明らかにするとともに、ゲノム疫学研究、OAの診断支援システムの開発、国内外の骨関節疾患予防コホートとの連携を推進していきたいとしている。

 このうち、OAの診断支援システムに関しては、複合的な所見を一つずつ分けて定量的に評価する膝OA診断支援システムKOACAD(Knee OA Computer Aided Diagnosis)が実用化のレベルに達している。