慶応義塾大学内科の桑名正隆氏

 強皮症の合併症の一つである末梢循環障害は、進行すると手指の潰瘍壊死をきたし、生命にかかわることもある。これまで血管拡張薬を中心とする治療が行われてきたが、効果が得られないことが多かった。第51回日本リウマチ学会総会・学術集会の一般口演で4月27日、スタチン系薬剤が強皮症患者の末梢循環障害に対し、長期にわたって改善効果をもたらすという注目すべき成績が、慶応義塾大学内科の桑名正隆氏らにより明らかにされた。

 強皮症では、皮膚、内臓諸臓器の線維化に加え、レイノー現象に代表される末梢循環障害がほぼすべての患者で発生する。原因はこれまで、血管内皮の傷害による血管の狭小化と推定され、血管拡張薬を中心とする治療が行われてきた。

 しかし、桑名氏らは別の原因を想定した。病理組織を観察すると、血管形成や側副血行路の新生は認められないが、病変部や末梢血中では血管新生因子の増加が認められる。これは、強皮症では血管新生機転は十分働いているにもかかわらず、傷害血管の修復が不十分であることを示唆している。

 このことから桑名氏らは、血管内皮が傷害されたときに起こるはずの、骨髄からの血管内皮前駆細胞CEP)の動員が減弱しており、CEPを介した傷害血管の修復が見られないために、末梢循環障害をきたすのではないかと考えた。

 そこで、スタチン系薬剤の多面的作用の一つとして、動物実験や虚血性心疾患患者で認められているCEP動員促進作用に着目。以前、強皮症患者に対して、高脂血症に使用される用量である1日10mgのアトルバスタチン投与を12週間続ける試験を行った。その結果、投与期間中のCEP増加、レイノー症状の改善、血管内皮傷害マーカーの改善などを認め、短期的効果があることを確認した。

 今回は、1年間投与したときの効果を検討した。対象は強皮症患者8例。倫理委員会から、血清総コレステロール値が180mg/dLを超える症例に限るという条件が加えられたため、症例集積がなかなか進まなかった。有害事象は認められず、8例全例が1年間の観察を遂行できた。

 投与開始1カ月後までに、総コレステロール値は150mg/dL前後まで低下し、以後そのレベルを維持した。レイノー状態スコアは3、12カ月後に有意な改善が認められた。VAS(Visual Analogue Scale)による患者のレイノー現象評価、機能障害スコア(HAQ-DI)、VASを用いた患者、医師による全般改善度は、いずれも3または12カ月後までに有意に改善した。

 開始前に手指潰瘍が3例で認められたが、うち2例ではアトルバスタチン投与開始後、潰瘍の新規発症が見られなくなった。また、3例の潰瘍新規発症回数は開始前の年平均3.7個から開始後には1.0個に減少した。さらに、血管新生因子(VEGFbFGF)、血管内皮傷害マーカー(可溶性VCAM1、可溶性E-セレクチン)も有意に改善した。CEPも1カ月後に有意に増加したが、その後は徐々に減少した。

 CEPの増加が一時的であったことから、スタチン系薬剤で改善効果が得られた機序は、「CEP動員という単純なものではなく、そのほかの多面的作用として認められている血管内皮保護、抗線維化、抗炎症といった様々な作用が複合的に働いたためではないか」と桑名氏。「スタチン系薬剤は高脂血症患者に広く用いられ、安全性が認められていることから、強皮症の末梢循環障害に対して今後積極的に使用されるべきだ」と訴えていた。