高知大学老年病・循環器・神経内科学講座の久保亨氏

 アルツハイマー型認知症の治療に広く用いられるドネペジルはアセチルコリンエステラーゼ阻害薬で、重大な副作用として徐脈性不整脈や心不全などの心血管イベントの発症に注意が必要とされている。高知大学老年病・循環器・神経内科学講座の久保亨氏らは認知症患者を対象に前向き観察研究を行い、同薬が心血管系に悪影響を及ぼさないことを、9月23〜25日に開催されていた第59回日本心臓病学会(JCC2011)において報告した。

 同薬が処方される患者は高齢者が多く、心血管イベントの発症リスクが高い集団であることから、投与をためらうケースは少なくない。その一方、同氏らは迷走神経刺激やアセチルコリンが心保護作用や虚血改善作用を示すこと、ドネペジルは心保護作用を有することを報告している。また、後ろ向きの検討だが、ドネペジルは認知症患者の全死亡、心血管死を抑制することも報告されている。

 こうした背景の下、久保氏らは、ドネペジルの内服予定者を対象に、心血管系への影響、特に心不全の発症・増悪の有無、あるいは不整脈抑制効果を前向きに検討した。対象は認知症患者49例で、ドネペジルを6カ月間投与し、心血管系に及ぼす影響を調べた。評価項目は、心血管イベント(心血管死、心血管イベントによる入院)、体重、心拍数、血圧、心電図所見、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)とし、内服前、内服1カ月後、3カ月後、6カ月後に評価した。BNPについては、追跡期間中に循環器に関連した薬剤を変更しなかった症例を対象とした。

 患者背景は、男性が25例、女性が24例、平均年齢は80.4歳、体重は50.70kg、心拍数は72.3拍/分、血圧は138.1/74.3mmHgで、心不全入院歴のある患者が2例、ペースメーカーの植込み患者が3例、心房細動患者が2例含まれていた。

 6カ月間の追跡期間中に心血管イベントの発症は認められなかった。体重はわずかながら有意に低下したが(50.98kg → 50.40kg、p=0.025)、収縮期・拡張期血圧、心拍数には有意な変化は認められず、著しい徐脈を来した症例も認めなかった。心電図所見に関しては、補正QT時間は415.9ミリ秒から421.2ミリ秒に有意に延長したが(p=0.018)、QT延長に伴う不整脈の出現はなかった。

 対象全体ではBNP値に有意な変動は認められなかった。しかし、内服前のBNP値が拡張不全による心不全のカットオフ値とされている60pg/mL以上の高値群では、内服前と内服後初回で比べると、BNP値は有意に低下していた(p=0.011)。また高値群では、内服後は低下しており、その低下傾向が6カ月後まで持続していた。

 以上の検討から久保氏は、「認知症患者において、ドネペジル内服による心血管系への悪影響は認められず、また、著しい徐脈が認められない症例での心不全増悪はなく、BNP値も増加しなかった」と結論した。さらに久保氏は、内服前のBNP値が60pg/mL以上の症例では、同薬の内服により有意に低下したことから、心不全治療薬としての可能性が示されたのではないかと述べ、軽症の心不全患者を対象とした前向き登録調査研究を行う予定であると語った。

(日経メディカル別冊編集)