石切生喜病院の笠行典章氏

 拡張不全を合併する高血圧患者において、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)またはACE阻害薬から、ロサルタン/ヒドロクロロチアジドHCTZ)合剤に切り替えることによって、強力な降圧効果と左室拡張能の改善が得られることが多施設共同研究によって明らかになった。9月23日から25日まで神戸市で開催された第56回日本心臓病学会JCC2011)において、石切生喜病院(東大阪市)の笠行典章氏らが報告した。

 RA系阻害薬は、心不全治療における有用性は証明されているが、拡張不全に対する効果は明らかになっていない。一方、サイアザイド系利尿薬は、Ca拮抗薬、ACE阻害薬に比べて、拡張不全による入院を減少させることが示されているが、代謝系への悪影響も懸念される。そこで笠行氏らは、ロサルタン/HCTZ合剤の、拡張不全を合併する高血圧患者に対する有用性と忍容性を検討する多施設共同研究EDEN(The Effect of a combination of angiotensin receptor blocker and DiurEtics on left ventricular diastolic fuNction in hypertensive patients)を実施した。

 対象は、ARBまたはACE阻害薬による降圧治療にもかかわらず、「高血圧治療ガイドライン(JSH2004)」の降圧目標値未達成の拡張不全を有する20歳以上85歳未満の外来患者。拡張不全は、左室駆出率が50%超で、僧帽弁輪速度(e’)が8cm/秒未満またはE/e’比が15超とした。文書による同意を得た415人を登録、脱落患者を除いた371人について解析した。

 試験は、ARBまたはACE阻害薬による4週以上の治療観察期間の後、ロサルタン/HCTZ合剤に切り替えて24週以上の治療を行った。1次エンドポイントとして、左室弛緩能(e’velocity)と左室充満圧(E/e’比)の変化、2次エンドポイントとして心不全の重症度を示すBNP、全身の炎症状態を示す高感度CRP(hsCRP)の変化、腎機能や電解質、糖・脂質代謝への影響などについて評価検討した。

 対象患者371人(男性236人、女性135人、年齢67.5±9.6)の28.6%が糖尿病、57.7%が高脂血症、19.7%が狭心症を合併していた。心機能はNYHA Iが58.2%、NYHA IIが37.2%で、ベースライン時における収縮期血圧(SBP)は155±17mmHg、拡張期血圧(DBP)は88±12mmHgだった。

 ロサルタン/HCTZ合剤に切り替えて24週の治療を行った結果、SBPは133mmHg、DBPは76mmHgとベースライン時に比べ有意に低下した(ともにp<0.001)。心拍数の増大は認められなかった。e’velocityは5.5 cm/秒から6.5cm/秒、E/e’比も12.1から10.6に、有意に改善した(ともにp<0.001)。

 また左室重量(LVM)(171.5g/m2 → 161.2g/m2)、BNP(48.6pg/dL → 36.5pg/dL)、hs-CRP(0.5mg/dL → 0.3mg/dL)も有意に低下した(すべてp<0.001)。

 e’velocityに影響を及ぼす因子として、単変量解析ではSBP、DBP、クレアチニン、BNP、hs-CRP、推定糸球体濾過量(eGFR)が同定されたが、多変量解析の結果、SBP、BNP、hs-CRPが独立した因子であることが明らかになった。

 HCTZは、RA系や交感神経活性の亢進により、腎機能、電解質、糖代謝、hs-CRPなどに対する悪影響が懸念される。しかし今回の検討では、尿素窒素(BUN)、クレアチニン、血清Na、Kなどの値に変動が見られたものの、すべて正常の範囲内だった。また、尿酸値が高い患者群(7.0mg/dL以上)では、有意に尿酸値が低下していた(7.7mg/dL → 6.9mg/dL、p<0.001)。

 また、空腹時血糖値やHbA1c値の変化はなく、インスリン活性、インスリン抵抗性への影響も認められなかった。総コレステロール、中性脂肪は、有意に低下した(p<0.001)。

 これらの結果から笠行氏は、「ロサルタン/HCTZ合剤による降圧強化療法は、左室拡張能を改善させ、その機序は同剤の抗炎症効果による可能性が示唆された」と結論した。

 笠行氏は、バルサルタン/HCTZ合剤ではhs-CRPの低下は認められなかったとする既報に言及し、「今回観察された抗炎症作用はARBのクラスエフェクトではなく、ロサルタン特有のものである可能性も考えられるが、これについては今後の検討が必要だ」と述べた。

 また会場から、「尿酸は酸化ストレスのマーカーであり、炎症を引き起こすことが知られている。尿酸とhs-CRPの関係を検討することによって、今回の研究で認められた抗炎症作用が、ロサルタンの尿酸値改善作用に起因するものかどうかが、より明らかになるのではないか」と指摘する声が上がった。

(日経メディカル別冊編集)