豊郷病院循環器内科の蔦本尚慶氏

 糖尿病を合併した慢性心不全患者に対して、DPP-4阻害薬シタグリプチン脳性ナトリウム利尿ペプチドBNP)濃度の上昇を介して心保護作用を有する可能性が示唆された。9月23日から25日まで神戸市で開催された日本心臓病学会JCC2011)で、豊郷病院(滋賀県犬上郡豊郷町)循環器内科の蔦本尚慶氏が報告した。

 慢性心不全患者の3〜4割は糖尿病を合併しており、糖尿病自体も慢性心不全のリスク因子とされている。しかし、こうした患者に対する治療についてのエビデンスは確立されておらず、日常臨床でも薬剤選択に迷うことが少なくない。蔦本氏らは、多様な作用を有すると期待されるDPP-4阻害薬がBNPの生理活性を上昇させる可能性に着目し、心保護作用について検討を行った。

 心筋細胞中のproBNPが分泌される際には、NT-proBNPとBNP(1-32)に、ほぼ1対1の割合で切断される。DPP-4には、このBNP1-32をBNP3-32に分解する作用があることが報告されている。BNP3-32は生理活性が低く、利尿作用や臓器保護などの作用が弱い。つまり、シタグリプチンの投与によりDPP−4を阻害すれば、BNP1-32から3-32への分解が阻害されて、BNPの生理活性が上昇する可能性があると考えられる。

 BNPは日常臨床での測定が可能だが、BNP1-32とBNP3-32の区別はできない。そこで蔦本氏らは、NT-proBNPを同時に測定することによって、シタグリプチンのBNP濃度に及ぼす影響を検討した。

 対象は糖尿病を合併した慢性心不全患者30人。年齢66.1±10.9歳、男性が28人で、NYHA Iが10人、NYHA IIが20人。

 対象患者のベースラインにおける左室駆出率(LVEF)は48%、HbA1c値は6.8%、BNPは 68pg/mL、NT-proBNPは389pg/mL、アルドステロンが137pg/mLだった。糖尿病治療薬としてはSU薬/メトホルミンが10%、αグルコシダーゼ阻害薬が23%、ピオグリタゾンが37%の患者に投与されていた。またループ利尿薬が43%、RA系阻害薬が90%、スピロノラクトンが70%、β遮断薬が77%の患者に投与されていた。

 シタグリプチン(50mg/日)を6カ月間投与した結果、心拍数、収縮期血圧(SBP)などの血行動態に変化はなく、LVEFの変動も見られなかった。HbA1c値は6.2〜6.3程度に有意に低下(p<0.0001)した。

 NT-proBNP濃度に有意な変化は認めらなかったが、BNP濃度は100程度にまで有意に増加(p=0.0015)し、BNP/NT-proBNPモル比もベースライン時の0.5程度から0.7以上へと有意に上昇した(p=0.0095)。

 これらの指標の変動について蔦本氏は、「BNPだけを見ると、心不全が悪化していると誤解する可能性がある。NT-proBNPは変化しておらず、心不全は悪くなっていないと判断すべき」と強調。生理活性を有するBNPが増えたことを示唆するcGMPの上昇も確認しているという。加えて、アルドステロン濃度も110pg/mL程度へと有意に低下していること(p=0.01)からも、心不全はむしろ改善していることが示唆された。

 蔦本氏は、「糖尿病を合併した慢性心不全患者において、DPP-4阻害薬シタグリプチンを6カ月間投与した結果、NT-proBNP濃度には影響を及ぼさず、BNP濃度の上昇とBNP/NT-proBNPモル比の上昇に加えて、アルドステロン濃度の低下を認めたことから、シタグリプチンが心保護作用を有する可能性が示唆された。心保護作用のある糖尿病治療薬として、興味を持って見ていく必要がある」との見解を示した。また今後、心筋リモデリングに対する作用なども検討する予定だという。

(日経メディカル別冊編集)