大阪府立病院機構大阪府立成人病センター乳腺・内分泌外科の稲治英生氏

 第16回日本乳癌学会学術総会が9月26日から27日に大阪市で開催された。乳腺専門医の増加と共に、標準治療の全国的な浸透が比較的進行しており、チーム医療も活発だ。この乳癌診療のこれまでの到達点と、今後の目指すべき方向性を会長を務めた稲治英生氏にうかがった。


──まずは、今回の学会の感想をお願いします。

稲治 今回のテーマである「標準化から個別化へ」が、時代の要請にマッチした内容だったようで、予想を超える多数の演題の応募を得ることができました。また、昨年に劣らない多数の参加者(4845名)を迎えることができました。

 一昔前まで、医師のさじ加減という意味で診療はある意味「個別化」だったわけです。それが、EBMに根ざしたガイドラインの普及と共に、標準化が進み、乳癌診療の底上げにつながった。それはそれで非常にすばらしいことだったわけですが次のステップとしては、標準治療を熟知した上でのよりリファインされた形での個別化に向かうべきだと思うのです。

 また、薬物療法のみでなく、検診のあり方、放射線治療の個別化の研究も重要課題です。例えば、乳癌の罹患リスクを評価した上で、各個人のリスクに見合った検診のあり方の検討、再発リスクを評価した上での術後放射線療法の選択の有無などがあります。

──乳房温存手術後の放射線療法の省略が特定の群では可能という成果は、先生が班長を務めた厚生労働省がん研究助成金研究によるものでしたね。

稲治 現在のガイドラインでは、乳房温存手術後の放射線療法は必須です。しかし、今回、国立病院四国がんセンターの大住省三氏の発表で、ある条件を満たせば、放射線療法を省略しても再発リスクを上げないという結果を前向き試験で示すことができました。

 実は、海外の同様の研究では、放射線療法を省略すると、乳房内再発率が上がってしまう結果が出されています。今回、国内の研究で再発リスクが上がらないという結果が出せたのは、外科、病理連携のレベルの高さを示すものでもあると思うのです。日本の病理医は切除した組織を非常に丁寧に見た上で断端陰性の判断を下しています。断端陰性をしっかり確認し、かつ、他の条件も全て満たしている場合であれば、放射線療法は省略し得る。放射線療法の個別化ができると考えています。

 私自身、臨床研究段階であることをきちんと説明したうえで、再発リスクがきわめて低いと判断される患者さんに対しては、放射線療法の省略も選択肢として呈示しています。


──熱気のある総会でしたね。若手医師、コメディカルの参加も多かったようです。

稲治 乳癌学会の会員の割合では外科が8割とメインは外科です。しかし、現在の乳癌治療は極力小さくとって、後は薬物や放射線で治療するというものです。手術は必要最小限にとどめて、むしろ治療の主役は薬物療法といっても過言ではありません。非常に内科的色彩が強くなっています。

 特に最近の傾向として、治療標的のはっきりした分子標的治療に関心が集まっています。ホルモン療法も、ある意味、分子標的治療薬ですしね。さらに、新しい分子標的治療薬も続々と登場するでしょう。このような乳癌診療の状況は、若手の医師などに、おもしろいと理解されてきているのでしょうね。乳癌学会の会員として若い医師が増えてきています。

 そして、今回の総会でも、教育セミナーや画像診断セミナー、病理セミナーなどへの参加者も非常に多いものでした。加えて、コメディカルの参加も盛んです。多くの看護師の方々が、看護セミナー以外のセミナーも非常に熱心に聞いているのに感銘を受けました。また、薬剤師の参加も増えてきているのも喜ばしい限りです。

 とにかく、皆さん、とても勉強熱心ですからわが国の乳癌診療の未来は明るいと思います。

──チーム医療が進んでいると。

稲治 うちの病院でも、乳がん看護認定看護師が看護外来を開いています。男性医師には相談できないことでも、同性の女性看護師には話せると好評です。同性の看護師の果たす役割は大きいですね。

 ただ、チーム医療に関しては、まだ問題点もあります。今の乳癌診療では、多くの病院で、外科がレントゲンの読影から薬物療法まで全て行っている。今後は、ぜひ、より多くの放射線診断医や腫瘍内科医に乳癌分野に入ってきていただいて、分業を勧めていきたいですね。これほど薬物療法が効く固形癌はありませんから、腫瘍内科医にとってもやりがいのある領域だと思います。