乳癌手術の後、リンパ浮腫を発症していた人が半数に上ることが、全国51施設におけるレトロスペクティブ調査で明らかになった。日本乳癌学会の班研究「リンパ浮腫の実態調査と治療・予防ガイドラインの作成」の最終報告によるもの。9月26日〜27日に大阪で開催された日本乳癌学会学術総会で、研究班班長で、九州中央病院副院長の北村薫氏が発表した。

 研究班は、2007年1月から2008年3月に、問診とカルテに基づくアンケート調査を全国344施設に依頼した。その結果、51施設から回答が寄せられ、乳癌術後に再発のない1379人のデータが得られた。

 患者の平均年齢は57.9歳(26〜88歳)、BMIが23.4(8.4〜39.8)で、利き腕が患側だった患者は51.7%、術式では乳房温存術の施行が50.3%、腋窩郭清を行った患者は84.9%を占めた。術後の期間は平均で4.2年(0〜53.3年)、術後補助療法を受けた患者は88.9%だった。

 また放射線治療による原発部位への照射は45.6%の患者に行われており、リンパ節への照射は10.3%だった。予防に関する患者教育は63.0%で実施されていたが、リンパ浮腫発症後の患者教育は32.1%と低かった。治療法としては、弾性着衣の使用が16.2%、リンパドレナージが9.3%、間欠性空気圧ポンプが6.1%だった。

 患側が健側に比べて1cm以上大きい場合をリンパ浮腫の発症と定義し、2cm以上を重症としたところ、リンパ浮腫は1379人のうち702人(50.9%)で発症しており、このうち軽症が53.4%、重症が46.6%だった。術後から発症までの期間は平均で3.9年だった。

 多変量解析で、リンパ浮腫に影響を及ぼす因子は、肥満(BMI≧25)、術式(拡大乳房切除術)、補助療法(なし)、リンパ節への照射(あり)、予防教育(なし)であることが分かった。

 リンパ浮腫の合併症である蜂窩織炎という感染症を発症した患者は、分析ができた1269人のうち201人(15.8%)で、このうちリンパ浮腫を再発した患者が61.2%に及んだ。北村氏は「蜂窩織炎によって、あらたにリンパ浮腫が発症する例もあり、蜂窩織炎の阻止が予防教育では重要である」と述べた。

 さらに、リンパ浮腫があった患者のうち、浮腫を自覚していない人が48.8%を占め、これらの患者のうち重症が23.4%だった。

 郭清による違いを見たところ、腋窩郭清のレベル2〜3を受けた患者では54.0%、レベル1では50.0%でリンパ浮腫が発症していた。センチネルリンパ節生検のみでは34.1%だったが、重症の患者が9.5%と、センチネルリンパ節生検だけでもリンパ浮腫が発症し、重症となる可能性も示された。

 しかし、研究班が、2003年7月〜2008年4月に、4施設446人を対象にプロスペクティブに術前後の周径を比較したところ、平均追跡期間17.5カ月で、センチネルリンパ節生検のみを受けた患者では術前後で周径に大きな変化はなかった。一方、腋窩郭清を受けた患者では肘下5cmと肘上10cmで周径が増加しており、リンパ浮腫の発症が10.6%の患者で認められた。

 これらの結果を踏まえて、班研究の目的の1つである診療ガイドラインの作成において、蜂窩織炎の予防は推奨グレードB(行うよう勧められる)に、弾性着衣や弾性包帯、リンパドレナージはグレードC(行うよう勧めるだけの根拠が明確でない)、薬物療法はグレードE(行わないよう強く勧められる)とした。

 また弾性着衣の効果に関し、九州中央病院で調査した結果では、上肢、下肢ともに周径は1〜2cm減少していることが確認されたが、継続的に見ると、使用後3カ月位から効果が低くなり、6カ月ではほとんど効果のないことが分かった。北村氏は、「弾性着衣は6カ月で交換すべきだろう」としている。

 研究班は、昨年、「四肢リンパ浮腫に対する弾性着衣を用いた圧迫療法」に関する医療技術評価提案書を、この研究の中間報告資料とともに提出したところ、採択され、今年4月から弾性着衣の使用は保険適用となり、「リンパ浮腫指導管理料」(100点)も認められている。