帝京大学医学部の寺本民生氏

 この6月に「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版」が発刊された。7月19、20日と福岡で開催された第44回日本動脈硬化学会(JAS2012)で、帝京大学医学部の寺本民生氏が、同ガイドラインの主な改訂点のうち高リスク病態を中心に解説した。

 2008年度人口動態統計によれば、心筋梗塞や脳血管障害などの動脈硬化性疾患による死亡は全死亡の27%を占めている。したがって、動脈硬化性疾患の発症をいかに予防するかが依然、大きな課題と言える。

 一方、米国では、1960年代にFramingham Studyのデータが報告され、冠動脈疾患(CAD)の発症を予防するために生活習慣の修正、包括的なリスク因子の管理が積極的に進められた。その結果、総コレステロール値は低下し、CADや脳卒中による死亡率は大きく減少した。

 また、スタチンを用いた大規模臨床試験のメタ解析において、LDLコレステロール(LDL-C)値を積極的に低下させることで、CADや脳卒中の発症リスクだけでなく、全死亡リスクが低下することも示されている。そのため今回の改訂では、生活習慣の修正、絶対リスクに応じたLDL-C値の管理が重要視された。

 2012年版ではLDL-C管理目標値を設定するためのフローチャートが作成されている。まずCADの有無から二次予防例を、次に糖尿病、慢性腎臓病(CKD)、非心原性脳梗塞、末梢動脈疾患(PAD)の有無からカテゴリーIII該当例を選別する。それ以外の患者のうち、NIPPON DATA80に基づく冠動脈疾患による10年間死亡確率(絶対リスク)が2%以上であればカテゴリーIIIに分類とする。さらに、低HDLコレステロール血症、早発性冠動脈疾患家族歴第1度近親者、耐糖能異常のいずれかのリスク保有者は同死亡確率が0.5%以上2.0%未満であってもカテゴリーIIIとする。これらの患者群が高リスク病態で、LDL-C管理目標値は二次予防例が100mg/dL未満、カテゴリーIIIが120mg/dL未満とされている。

 高リスク病態の中で最も問題となるのは二次予防である。CREDO-KyotoやOACISなどから、日本人におけるリスク因子が明らかにされたため、2012年版では、二次予防例の中でも急性冠症候群、喫煙、糖尿病、CKD、脳血管障害・PAD、メタボリックシンドローム、危険因子の重複を伴う患者はより厳格な管理が必要な病態と位置付けた。しかし現状では、LDL-C管理目標値の達成率は十分ではないことから、まずは確実に現在の管理目標値を達成することを重視し、必要を認めれば、より厳格な治療も考慮してよいとされている。

 糖尿病については、国内外のデータに基づき、細小血管症(網膜症、腎症など)、血糖コントロール不良状態の持続、喫煙、CKD、非心原性脳梗塞・PAD、メタボリックシンドロームの合併例ではCADのリスクが高いと考え、LDL-C値120mg/dL未満の達成を必須とし、これらの病態の重複例では二次予防例と同等の管理を行うことも考慮してもよいとした。

 家族性高コレステロール血症(FH)患者ではCAD発症率が高く、LDL-Cが管理されていてもCADを発症する例も多い。そのため2012年版では、FHヘテロ接合体の診断基準を設け、LDL-C管理目標値を100mg/dL未満あるいは治療前の50%未満に設定した。

 CKDについては、近年わが国の疫学データが蓄積され、日本人においてもCKDが心血管疾患のリスク因子であることが明らかにされた。また、海外の臨床試験では、透析導入前から積極的に脂質低下療法を行うことで、心血管イベントは抑制しうることも報告されているので、脂質管理は非常に重要だとしている。

 疫学的には脳血管障害の重要なリスク因子は血圧である。しかし、LDL-C低下療法によって脳梗塞リスクは低下することが示されている。また、PADとCADの合併率は高く、PAD患者の心血管イベント発症率は高いことから、PADも高リスク病態と位置付けた。

 なお、絶対リスクで低リスクとされた群に対しても、徹底した生活習慣の改善を指導する必要があることを強調した。どの危険因子でも加齢とともにリスクが高まるため、年齢が低いうちに解消しておくことが重要だとした。

 最後に寺本氏は、高リスク病態の患者では、リスクを早期に軽減するために、生活習慣の改善も肝要だと改めて強調し、「治療に対するアドヒアランスを高める工夫が必要だ」と述べて講演を締めくくった。

(日経メディカル別冊編集)