帝京大学医学部の寺本民生氏

 動脈硬化性疾患に関するガイドラインは1997年に高脂血症診療ガイドラインとして発表されて以降、5年ごとに改訂が行われており、2012年6月には最新版の「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版」が発表された。ガイドラインで示されている管理すべき脂質危険因子の変遷について、帝京大学医学部の寺本民生氏が、7月19、20日と福岡で開催された第44回日本動脈硬化学会(JAS2012)で解説した。

 1987年に開催された日本動脈硬化学会のコンセンサス・カンファレンスにおいて、家族性高コレステロール血症(FH)患者を動脈硬化発症群と規定した場合の脂質危険因子として、総コレステロール(TC)値が検討された。FH患者群と健常群におけるTC値の分布を比較し、基準値としてTC 230mg/dLが提案された。また、FHではない動脈硬化発症群では、TC 220〜240mg/dLがカッティング・ポイントとして適当ではないかとの議論が行われた。

 一方、当時の米国でもTCを基本軸とした動脈硬化性疾患の評価が行われ、大規模疫学研究MRFIT(Multiple Risk Factor Intervention Trial)の結果などから、TCの理想的な管理目標値は200mg/dL未満、高コレステロール血症は240mg/dL以上と定められた。米国のNational Cholesterol Education Program(NCEP)では、TC値の次に管理すべき脂質危険因子としてLDLコレステロール(LDL-C)値を挙げており、Friedewald式(F式)を用いて求めることとした。

 その後、1993年に発表されたNCEPのAdult Treatment Panel(ATP)IIでは、診断基準として初めてHDLコレステロール(HDL-C)が登場し、TCの次に重要な指標として位置づけられた。また、LDL-Cについては、食事療法と薬物療法の開始基準が提示された。

 こうした流れを受け、わが国でも厚生省(当時)の「原発性高脂血症」調査研究班の調査結果や専門家の意見などを基に治療目標値が決定された。TCおよびLDL-Cの目標値は患者の保有する危険因子に基づいて段階的に、トリグリセリド(TG)とHDL-Cの目標値危険因子の有無を問わず、それぞれ設定された。

 エビデンスに基づいて治療目標値が設定されたのはNIPPON DATAの結果が発表された後で、1997年の高脂血症診療ガイドラインからだ。TCの適正域は200mg/dL未満、境界域は200〜219mg/dL、220mg/dL以上は高コレステロール血症とされた。F式を用いてTCから算出し、LDL-Cの適正域を120mg/dL未満、境界域を120〜139mg/dL、高コレステロール血症は140mg/dL以上とした。また、リスク別の管理目標値から20mg/dL上回った場合を薬物療法適用基準とした。

 5年後の2002年には動脈硬化性疾患診療ガイドラインと名称を変え、冠動脈疾患などを予防するためには、血清脂質値だけでなく動脈硬化性疾患に関わるすべての危険因子を包括的に管理することの重要性が強調された。しかし、この時点においても管理すべき脂質危険因子の基本はTCで、次いでLDL-Cであった。

 2007年には、動脈硬化性疾患を発症させないことの重要性を踏まえて、名称を予防ガイドラインに変更し、危険因子や管理基準はわが国の大規模疫学調査NIPPON DATA 80に則って策定した。また、脂質危険因子からTCが除外され、診断や管理はLDL-C、HDL-C、TGを用いて行うことになった。

 2007年版ではLDL-Cの測定法として直接法を併記していたが、精度管理に問題があったことから、最新の2012年版ではF式を用いることが推奨されている。ほかにも、境界域高LDLコレステロール血症(120〜139mg/dL)が設けられ、生活習慣修正の重要性が強調され、TGが高くF式が適応できない場合を考慮してnon HDLコレステロール(=TC−HDL-C)の管理目標値が設定された。

 寺本氏は、「現在のところ、LDL-Cと冠動脈疾患の関連性は明確なため、LDL-C管理目標値の達成を第一義とするべきだ。これが管理できた場合、残余リスク(residual risk)を低減するために、VLDLやレムナントリポ蛋白コレステロールなどを含むnon-HDL-Cを管理することが望ましい」と述べて、講演を終えた。

(日経メディカル別冊編集)