新潟県立大学人間生活学部健康栄養学科の田辺直仁氏

 わが国では循環器疾患の発症やそれによる死亡の絶対リスクを評価するツールはこれまでほとんどなかったが、最近、複数の評価ツールが発表されている。その1つが、日本の大規模共同コホート研究であるJALSJapan Arteriosclerosis Longitudinal Study)のデータを基に作成された、急性心筋梗塞AMI)の5年発症リスクを評価するツールだ。新潟県立大学人間生活学部健康栄養学科の田辺直仁氏が、7月15日から開催されていた日本動脈硬化学会JALS2011)で、評価ツールやスコアモデルなどについて解説した。

 JALSは、国内で既に実施されたコホート研究の個人単位のデータを統合する「0次研究(JALS-ECC)」と、前向きにデータを統合する研究からなる。後者は2002年にベースライン調査を始め、現在追跡調査中である。前者は21のコホート研究を統合して1985年〜2002年のデータを解析するもので、数多くの研究成果が既に報告されている。田辺氏らはこれらのコホート研究のうち、(1)地域住民が対象、(2)エンドポイントに心筋梗塞および病型別脳卒中の発症が含まれている、(3)総コレステロール(TC)、HDLコレステロール(HDL-C)、血圧、身長、体重、喫煙習慣、糖尿病歴のデータがある――という3つの条件を満たした10のコホート研究を抽出した。虚血性心疾患および脳卒中の既往例を除外した2万2430例を解析対象とした。平均年齢は58±11歳、追跡期間は7.6±2.9年で、その間に心筋梗塞が104例、脳卒中が339例観察された。

 対象をTC値とnon HDL-C値でそれぞれ4分位に分け、ポアソン回帰モデルを用い、性と年齢、HDL-C値、血圧値、BMI、糖尿病の有無、喫煙習慣などを調整因子に加えた多変量解析を行い、AMIの罹患率比(IRR:incidence rate ratio)を算出した。その結果、TC値とnon HDL-C値のいずれも高分位になるほどAMIの発症リスクが上昇する傾向にあることが分かった。

 AMIの5年発症リスクに対するROC(receiver operating characteristics)解析を行ったところ、曲線下面積(AUC)はTC値が0.817、non HDL-C値が0.833と、わずかにnon HDL-C値の方が優れていた。

 一方、脳卒中においては、TC値、non-HDL-C値のいずれにおいても、IRRは分位による差はなく、TC値やnon HDL-C値は脳卒中発症に影響を与えないことが示唆された。さらに、病型別にみても差はなかった。

 田辺氏らはこれらを踏まえ、いくつかのリスクファクターを基にAMIを5年以内に発症する確率を予測するモデルを作成した。具体的には、性別、年齢、non HDL-C値、HDL-C値、血圧値、糖尿病、喫煙習慣に応じたスコアをそれぞれ定め、その合計スコアで発症確率を求められるようにした。例えば、男性、65歳、non HDL-C値が190mg/dL、HDL-C値が35mg/dL、血圧値が160/88mmHg、糖尿病あり、喫煙という人であれば、論文(Circ J 2010;74:1346-56)に掲載されている表を基に計算すると、合計スコアが77.5ポイントとなり、5年以内のAMI発症リスクは約3.6%となる。

 さらに、発症リスクをより簡便に算出できるツール「JAS急性心筋梗塞リスクシート」(Excel形式)を作成し、ホームページ(http://jals.gr.jp)で公開している。

 田辺氏はこのツールの限界点として、コホート研究を基にしているので発症者の見落としなどにより実際よりもリスクが過小評価される可能性がある、狭心症が含まれていない、糖尿病の重症度などの情報は反映されていないといった限界点を指摘。一方で、糖尿病、高血圧、喫煙などで心筋梗塞のリスクがより高まることをわかりやすく示せると、絶対リスク評価の有用性を強調した。

(日経メディカル別冊編集)