東京大学医学部附属病院総合研修センターの江頭正人氏

 後期高齢者においても、厳格な脂質管理は有用なのだろうか。高齢化のスピードで世界の先頭を走る日本において、この課題を解決するために、現在、75歳以上の高LDLコレステロール血症患者を対象とする多施設共同無作為化比較試験EWTOPIA75が進行中だ。同試験の意義および患者登録状況などについて、7月15日から開催された日本動脈硬化学会JAS2011)において東京大学医学部附属病院総合研修センターの江頭正人氏が報告した。

 日本における死因の第1位を占める悪性腫瘍による死亡率のピークは65〜75歳で、75歳以上の後期高齢者では脳心血管疾患や感染症による死亡率が高く、複合的な管理が求められる。後期高齢者では、脂質異常症の罹患率は低下するが、高血圧や糖尿病の罹患率は上昇し続ける。また後期高齢者では無症候性の冠動脈疾患が増え、脂質に富んだソフトプラークが破綻して生じるST上昇型よりも、血管石灰化の進行によるST低下型の心血管イベントが増加する。後期高齢者は脳心血管死亡のハイリスク集団ではあるが、血清コレステロール高値の関与は、前期高齢者や中年者に比べると低いと考えられている。

 一方、スタチンを用いた脂質低下療法の有用性を検討した大規模臨床試験は多いが、後期高齢者を対象に含めた試験は少ない。PROSPER(Prospective Study of Pravastatin in the Elderly at Risk)試験のサブ解析では、70〜82歳(平均75歳)の高齢者においてもスタチン療法により冠動脈イベントの発症が19%有意に抑制されることが示された。しかし層別解析を見ると、2次予防群の冠動脈イベントは抑制できても、脳卒中は抑制できていなかった。1次予防群では冠動脈イベント、脳卒中ともに抑制効果は認められなかった。

 こうした疫学的研究や介入試験の結果を受けて、「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2007」では、75歳以上の後期高齢者における脂質低下療法の臨床的意義は明らかではないとし、病態を考慮して個別に対応することを推奨している。また最近改訂された欧州のガイドラインでも、心血管疾患の既往のない高齢者に対するスタチン療法の推奨度はIIbで、エビデンスが確立していない治療法と位置付けられている。こうした状況の中で、後期高齢者における脂質低下療法のエビデンスの構築が求められている。

 日本老年医学会の主催により医師主導型臨床試験としてスタートしたEWTOPIA75(Ezetimibe lipid loWering Trial On Prevention of Atherosclerosis in 75 or older)は、75歳以上の高齢者でLDLコレステロール(LDL-C)値が140mg/dL以上のハイリスク患者を対象に、エゼチミブの脳心血管イベント発症抑制効果を検討するための多施設共同による1次予防試験だ。試験デザインにはPROBE法(前向き、無作為化、オープンラベル、評価者盲検化)が採用された。

 冠動脈疾患の危険因子(糖尿病、高血圧、低HDLコレステロール[HDL-C]血症、高トリグリセリド[TG]血症、喫煙、脳梗塞既往、末梢動脈疾患)を少なくとも1つを有する症例を対象とした。冠動脈疾患既往や狭心症、心房細動、家族性高コレステロール血症、認知症と診断されている症例などは除外した。対象を食事指導群、あるいは食事指導とともにエゼチミブ10mg/日を投与する群に無作為に割り付け、最長6年間追跡する。

 主要評価項目は、複合脳心血管イベント(心突然死、致死性および非致死性心筋梗塞、PCI/CABG施行、致死性および非致死性脳卒中)とした。また副次評価項目として、脳心血管イベントに加え、脳心血管死および非脳心血管死、癌による死亡、脳心血管疾患あるいは非脳心血管疾患による入院のほか、癌の発症、大腿骨頸部骨折、認知症、うつ病、ADL、介護施設への入所、経済効果などを評価する

 患者登録期間は2009年1月から2011年12月までとし、最終登録症例の試験開始から3年後(2014年12月)に追跡調査を終了する。両群3000人の登録を予定している。既に全国648施設から参加申し込みがあり(2011年6月10日時点)、2579人が登録されている(2011年6月30日時点)。女性が68%を占め、平均年齢は80.3歳、最高齢者は100歳の女性だ。

 2010年10月の時点の中間モニタリング報告によると、登録患者のスタチン使用経験は17%、冠動脈疾患の危険因子の保有率は、糖尿病が25%、高血圧が81%、低HDL-C血症が14%、高TG血症が41%、喫煙が6.7%、脳梗塞既往が4.8%、末梢動脈疾患が7.5%だった。

 江頭氏はEWTOPIA75の特徴として、75歳以上の脳心血管疾患のハイリスク患者を対象とし、癌や感染症、骨折などの非脳心血管イベント、認知症や抑うつ症状、活動能力障害などのADLも評価している点に加え、エゼチミブ単独療法の有効性と安全性を評価する世界初の試験である点を挙げ、講演を終えた。


(日経メディカル別冊編集)