Tsukasa Health Care Hospital(鹿児島市)の枇榔貞利氏

 心血管イベントや死亡のリスクを示す際には、相対リスクよりも絶対リスクを用いた方が実際のリスクをイメージしやすい。また、動脈硬化性疾患は多因子疾患であることから、できるだけ多くのリスク因子を評価に含めた絶対リスク評価が適している。そのため、現在、改訂作業が進められている新しい「動脈硬化性疾患予防ガイドライン」では、絶対リスク評価が採用される。Tsukasa Health Care Hospital(鹿児島市)の枇榔貞利氏が、7月16日まで札幌市で開催されていた日本動脈硬化学会JAS2011)で、絶対リスク評価とそれを用いたカテゴリー分類案について解説した。

 欧米では既に絶対リスク評価が採用されている。米国のガイドラインであるNCEP ATP IIIでは、フラミンガム研究の冠動脈疾患発症の絶対リスク評価チャートに基づき、10年発症リスクが20%を超えたらHigh risk、10〜20%であればModerately high riskなどと分類し、リスクに応じたLDLコレステロール(LDL-C)管理目標値や治療方針を提示している。

 最近改訂された欧州のガイドラインでも、12のコホート研究のデータに基づいて絶対リスク評価チャートを作成している。興味深いのは、冠動脈疾患リスクの高い北欧地域とリスクの低い地中海沿岸地域を区別していることである。

 わが国でも最近では、疫学研究の結果に基づき複数の絶対リスク評価チャートが示されている。しかし、これらのチャートのエンドポイントは冠動脈疾患死や全心血管疾患死であったり、さらに脳卒中や冠インターベンションを加えたものがあるなど異なっている。また、対象とした集団の特徴によって絶対リスクが異なってくることに注意が必要となる。

 そのため、ガイドラインにおける絶対リスク評価は、標準的な日本人を代表する大規模集団を高い追跡率でフォローアップした質の高いコホートで、既知のリスク因子をすべて評価に含めたデータに基づいて行う必要があり、現時点でこの条件を満たしているのはNIPPON DATA80だと考えられるという。NIPPON DATA80は1980年に全国から無作為に選んだ300地域に住む30歳以上の9216例を対象としたコホート研究で、参加率は75%、19年後の追跡率は91%と、その研究の質は非常に高い。リスク因子として、性別、年齢、総コレステロール、収縮期血圧、随時血糖値、喫煙習慣を調査し、冠動脈疾患死の絶対リスクを評価している。

 絶対リスク評価を行う際には、ハイリスクの基準をどう設定するかが課題の1つとなる。わが国の冠動脈疾患死のリスクは米国に比べると低いため、脳卒中死を含む心血管死のリスクが5%以上をハイリスクとする欧州の低リスク地域の基準が参考になるとの考えを示した。また、わが国では脳卒中を含む心血管疾患とコレステロール値の関連性を明示したエビデンスはないこと、冠動脈疾患死の発症リスクは脳卒中死の半分強であることなどを考慮し、新しいガイドラインでは冠動脈疾患死のリスクが2%以上の場合に高リスク、0.5〜1.9%の場合に中等度リスク、0.5%未満の場合に低リスクとする案が提示された。

 付加リスクがない場合、低リスクは管理区分1、中等度リスクは管理区分2、高リスク群は管理区分3とし、LDL-Cの管理目標は従来どおり、順に120mg/dL未満、140mg/dL未満、160mg/dL未満とする。また、低HDL-C血症あるいは冠動脈疾患の家族歴を有する場合については管理区分を1つ上げ、低リスクは管理区分2に、中等度リスクと高リスクは管理区分3の扱いとする。さらに、糖尿病、慢性腎臓病(CKD)、脳梗塞、末梢動脈疾患(PAD)を有する場合はすべてのリスクにおいて管理区分3とする。二次予防例の脂質管理に関しては従来と変わりはなく、LDL-Cの管理目標は100mg/dL未満に設定されている。なお、トリグリセリド(TG)高値例に限ってはnon-HDLコレステロール値による管理を行うことも示された(管理目標値はLDL-Cの目標値に30mg/dLを加えた値)。

 絶対リスク評価を行う上での課題として枇榔氏は、地域によって冠動脈疾患の発症リスクが大きく異なること、データを統合しようと思ってもエンドポイントが死亡や発症であったり定義が統一されていないことを挙げた。また実際に評価する際には、若年例では絶対リスクは低いが相対リスクは高く、高齢者では絶対リスクは高いが相対リスクが低いことを考慮する必要があると述べた。

(日経メディカル別冊編集)

【訂正】8/8に以下の訂正をしました。
発表者の氏名を「批榔貞利氏」と表記していましたが、正しくは「枇榔貞利氏」でした。お詫びして訂正いたします。