順天堂大学大学院循環器内科学の代田浩之氏

 新しい「動脈硬化性疾患予防ガイドライン」が来年の2012年に発表される。7月16日まで札幌市で開催されていた日本動脈硬化学会(JAS2011)で、現行のガイドラインが策定された2007年以降のエビデンスをまとめ、新しいガイドラインの方向性を討論するシンポジウムが開催された。その中で順天堂大学大学院循環器内科学の代田浩之氏は、欧米のガイドラインのように冠動脈疾患の二次予防の中に超ハイリスク群を設定し、より強力な脂質低下療法を行うことに対しては慎重な姿勢を示した。

 米国のガイドラインであるNCEP ATP III(2004)では、二次予防例のなかでも糖尿病やメタボリックシンドローム合併例、喫煙者、急性冠症候群(ACS)を超ハイリスクとし、LDL-C値を70mg/dL未満に管理することを推奨している。

 わが国の現行のガイドラインでは二次予防例のLDL-C管理目標値は100mg/dL未満に設定されているが、この基準についても十分なエビデンスが備わっているわけではない。代田氏はJ-LITの二次予防例ではLDL-C値の上昇に伴って冠イベントの発症リスクは上昇したが、100mg/dLがリスク上昇の明確な閾値であったわけではなかったと指摘した。

 日本人を対象とした二次予防例でイベント再発のリスク因子を検討したデータとして、まずJ-LIT二次予防例の層別解析では、糖尿病合併例、心筋梗塞既往例で冠イベント再発リスクが高く、喫煙例ではリスクが高い傾向が認められた。急性心筋梗塞患者を対象としたOASISでも、喫煙継続は再発のリスク因子だった。

 また、冠動脈疾患患者を対象としたJCAD Studyでは、耐糖能異常例の脳・心血管イベント発症リスクは耐糖能正常例に比べて有意に高く、代田氏らが冠動脈疾患患者を対象に行った検討でも、糖尿病合併例の総死亡、心血管死亡リスクは有意に高く、糖尿病とメタボリックシンドローム合併例では心臓死のリスクが最も高かった。さらにJ-LIT二次予防例ではLDL-C値が同じでも、糖尿病合併例の冠イベント発症リスクは非合併例に比べて高かった。

 最近では、ACS患者の長期追跡研究から腎機能が低下するほど主要心血管イベントの発症リスクが上昇すること、JELISサブ解析から末梢動脈疾患(PAD)が心血管疾患のリスク因子であることが報告された。さらに、血行再建術施行例を長期間追跡したCREDO-Kyoto studyでは、糖尿病、心筋梗塞既往、脳卒中、PAD、血清クレアチニン値高値が死亡リスクを高めることが明らかにされた。

 こうした検討から代田氏は、日本人の二次予防群の中から超ハイリスク例を同定するためのリスク因子の候補は、喫煙継続、主なリスク因子の集積、糖尿病、PAD、脳血管障害、CKDであるとした。

 次に代田氏は、日本人を対象に血管内超音波法(IVUS)を用いて強化脂質低下療法の有効性を検討した研究を紹介し、急性冠症候群患者を対象としたESTABLISHやJAPAN-ACS、安定期冠動脈疾患患者を対象としたCOSMOSでは、LDL-C値を100mg/dL未満に低下させることで冠動脈プラークが退縮することを示した。また、JAPAN-ACSではLDL-C値の低下率は同等だったのに、糖尿病合併例ではプラーク退縮率が小さく、LDL-C低下率とプラーク退縮率に有意な関連性が認められた。

 しかし、日本人の冠動脈疾患患者において強化脂質低下療法が臨床イベントの再発を抑制するかどうかについてエビデンスは限られており、急性心筋梗塞患者を対象としたMUSASHI-AMI、OASIS-LIPIDではスタチン療法のイベント抑制効果が示されているが、安定期の二次予防例を対象とした検討は報告されていない。

 こうしたわが国のエビデンスを踏まえて代田氏は、現状ではガイドラインが推奨する二次予防例のLDL-C管理目標値100mg/dLを確実に達成することが重要だと結論し、70〜80mg/dL未満を目標とする強化低下療法の有効性は現在進行中の介入試験によって検証されるのを待つ必要があり、現時点では個々の症例のリスクを評価して主治医の判断で行うべきであると述べて講演を終えた。

(日経メディカル別冊編集)