英国Barts and The London School of Medicine & DentistryのGraham MacGregor氏

 Franz Volhard Awardsは高血圧と腎疾患の領域において優れた業績を残したドイツのVolhards博士の生誕100年を記念して、Farbwerke Hoechst社が1972年に創設した賞だ。この賞は、高血圧とその関連領域において新しい研究分野を開拓し、現在でも脚光を浴び続けている概念を提唱した研究者に隔年で贈られる。受賞者は国際高血圧学会で招待講演を行うのが慣例で、カナダ・バンクーバーにて9月26日から30日まで開催された第23回国際高血圧学会(ISH2010)では、今回同賞を受賞した英国Barts and The London School of Medicine & DentistryのGraham MacGregor氏が招待講演を行い、塩分摂取と高血圧の関連性について概説した。

 MacGregor氏はまず、人類の塩分摂取量は食事内容の変化によって5000年前の0.1g/日未満から現在の9〜12g/日と著しく増加しており、それに伴って人類の平均血圧は確実に上昇したことを指摘した。現代でも0.1g/日未満で生活している人の血圧は96/61mmHg程度であることが知られている。もともと食塩は食品の保存などのために使われていたが、現在では冷蔵技術などが発達し、食塩の必要性は低下した。しかし、食塩摂取量が9〜12g/日と高く維持されているのは、外食や加工食品、ファストフードなど、消費者が直接意識しないところで食塩が多く使われていると指摘する。

 1982年、同氏らが実施したクロスオーバー介入試験の結果、中程度の減塩を行うことで血圧は有意に低下することが示され、減塩による降圧の機序としてレニン・アンジオテンシン・アルドステロン(RAA)系、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)、Na輸送体阻害因子などの関与が明らかされた。

 次に同氏は、塩分の過剰摂取がいかに血圧を上昇させることを検討した疫学研究や介入試験、動物モデルを用いた基礎研究などのデータを紹介した。

 はじめに、ロンドンの疫学研究では、血中Na濃度が1mmoL/L上昇すると収縮期血圧が1mmHg上昇することが、Bulpittらによって明らかにされている。また、日本の疫学研究では高血圧患者は血圧正常例に比べて血中Na濃度が高いことがkomiyaらにより示された。また、減塩を行うことで、血中および尿中のNa濃度は著しく低下し、血中Na濃度の低下量が大きいほど収縮期血圧の低下も大きくなることが、Heらによって明らかにされた。また、6gの塩分を含んだスープを飲むと、その後4時間以上にわたり、血中Na濃度が高値で推移することも、最近Sucklingらによって示されている。

 基礎実験では、細胞培養液中のNa濃度をわずか6mmoL/L上昇させただけで、心筋の筋芽細胞や血管平滑筋細胞のサイズ・容積や蛋白量が増大することもGuらにより報告されている。

 さらに、塩分過剰摂取は血管内皮機能を障害することも分かっている。例えば、血管内皮細胞の硬化度は細胞外Na濃度の上昇とともに高まることをOberieithnerらが明らかにし、Liらの報告では、Na濃度の上昇とともにウシ大動脈内皮細胞のeNOS産生量が低下することが示された。また、高血圧患者を対象としたランダム化二重盲検クロスオーバー試験では、減塩によって脈波速度が改善することもHeらが報告している。

 最後にMacGregor氏は、塩分摂取量を減らせば血圧は低下し、脳卒中や心疾患の発症リスクが低下するため、減塩は費用対効果が高く実践的な降圧療法であると指摘。2004年から英国で始まった減塩キャンペーンは1500万ポンドの費用に対して年間6000例の心血管死を抑制し、年間15億ポンドの経済効果が示されたと語り、講演を締めくくった。

(日経メディカル別冊編集)