東京大学の藤田敏郎氏

 高カロリーの食事と運動不足からくる肥満、そして高塩分摂取──。その2つの要素が引き金となって発症する食塩感受性高血圧は現代社会の負の象徴の1つだ。食塩感受性高血圧の発症機序は長らく謎であったが、近年、東京大学の藤田敏郎氏らによって、アルドステロンを介さないミネラロコルチコイド受容体(MR)刺激経路が発見され、肥満と塩がその活性化の引き金となることが明らかとなった。カナダ・バンクーバーにて9月26日から30日まで開催された第23回国際高血圧学会(ISH2010)のシンポジウムの演者として登壇した藤田氏は、このMR刺激経路と肥満、塩との関係について講演した。

 健康なヒトの体内では、血中Na濃度が低下すれば腎臓でのNa再吸収を促進すべくアルドステロン量が増加し、逆にNa濃度が上昇すれば負のフィードバックを受けてアルドステロン量が減少するという応答が起こる。しかし、肥満を伴う場合は、脂肪細胞が分泌するレプチンやIL-6などの「悪玉サイトカイン」の作用によりアルドステロン分泌が促進されるため、アルドステロンの基礎分泌量が上昇することが、高血圧自然発症ラット(SHR)を用いた検討から示唆されている。したがって、肥満者では大量の塩分を摂取してもアルドステロン分泌を完全に抑えることができず、MR系が活性化され、血圧の上昇や心・腎への臓器障害が惹起されるものと推測されている。

 だが、実際には肥満を伴う高血圧患者がすべてアルドステロン分泌の上昇を呈するわけではない。一方で、アルドステロン量の上昇がみられない患者においても、アルドステロンブロッカーの投与によって蛋白尿が抑制されることから、アルドステロン以外の「何か」がMRを刺激していることが推測される。

 藤田氏らは、その「何か」の正体を模索するなかで、低分子量G蛋白質のひとつであるRac 1に着目。これを過剰に活性化させたマウス(Rac 1-Mice)を作製し、その機能を調べた結果、Rac 1-Miceでは野生型マウスに比してMR系の活性が有意に亢進し、尿中アルブミン排泄が著明に増加していることを見出した。

 さらに、このマウスに高塩分食を与えて飼育すると、アルドステロン量は著明に減少したにもかかわらず、MR系の下流にあるserum-and glucocorticoid-induceble kinase(Sgk1)の著明な発現増強が認められた。すなわち、Rac 1はアルドステロンに依存しないMR活性化因子として働き、その作用は塩分負荷によって増強されることが示唆された。

 Rac 1活性の亢進は、Dahl食塩感受性ラットや片腎摘出ラットでも認められ、これらのラットは食塩負荷に対してRac 1-Miceと同様の応答を呈した。前者は遺伝的・先天的な食塩感受性モデルであり、後者は後天的な食塩感受性モデルと位置づけられる。つまり、食塩感受性をもつヒトでは、人種差などによる先天的な食塩感受性であっても、肥満等による後天的な食塩感受性であっても、同じように食塩負荷によってアルドステロンとは無関係にRac 1-MR経路が活性化され、高血圧や臓器障害が引き起こされるものと考えられた。

 以上の結果をまとめると、食塩感受性高血圧の引き金は「塩」、メディエーターは「Rac 1」、ターゲットは「腎」であり、血圧上昇の主たる機序は「Na再吸収」というメカニズムが働いていることが考えられた。一方、食塩非感受性の高血圧についても、その機序に関する興味深い論文が本年になって報告されている(Guilluy C et al. NatMed 2010)。これによると、食塩非感受性高血圧の場合、引き金は「アンジオテンシンII」、メディエーターは「RhoA」、ターゲットは「血管平滑筋」であり、血圧上昇の主たる機序は「血管収縮」であるという。藤田氏は、「こうした知見が明らかになることにより、高血圧の機序に即したテイラーメイドの治療が可能となっていくだろう」と結んだ。

(日経メディカル別冊編集)