秋田労災病院の池田多聞氏(左)と東北労災病院の宗像正徳氏

 メタボリックシンドロームの構成要素のうち高血圧が、長時間労働に最も影響を受けやすいことが明らかになった。9月26日からバンクーバーで開催中の第23回国際高血圧学会(ISH2010)で、東北労災病院の宗像正徳氏と秋田労災病院の池田多聞氏が発表した。

 労災病院では、「労災過労死研究」として、長時間労働と生活習慣病の関係を明らかにする研究を進めている。これまで長時間労働がメタボリックシンドロームのリスク因子であることを示してきたが、メタボリックシンドロームの構成要素のうち、どの要素が長時間労働の影響を受けやすいのかについては明らかではなかった。

 本試験の対象は、労災過労死研究の参加者で、独立行政法人労働者健康福祉機構に所属する非管理職従業員2161例。

 給与明細から年間残業時間数を割り出し、労働時間と高血圧、脂質異常症、糖尿病との関連性について検討した。

 健康診断のデータからBMI、血圧値、空腹時血糖値、血清脂質値を抽出し、高血圧は収縮期血圧値140mmHg以上あるいは拡張期血圧値90mmHg以上または降圧薬の服用、脂質異常症はトリグリセライド値150mg/dL以上あるいはHDLコレステロール値40mg/dL未満、糖尿病は空腹時血糖値126mg/dL以上あるいは糖尿病治療薬の服用を基準として判定した。対象は2002年から06年まで追跡した。

 本試験では、長時間労働が翌年の血圧値、脂質あるいは糖代謝に影響を及ぼすとの仮説を立て、ロジスティック回帰分析により年間残業時間数と翌年の高血圧、脂質異常症、糖尿病の保有率との関連性を検討した。また、両者の長期的な関連性については、一般化推定方程式を用いて検討した。

 試験対象となった2161例(男性635例、女性1526例)の平均年齢は43.7歳で、職務分類による内訳は、一般事務職8.7%、医師1.0%、看護師55.1%、その他の医療スタッフ(臨床検査技師、放射線技師、薬剤師、栄養士、作業療法士、理学療法士など)30.2%、その他の専門職(調理師、運転士、ボイラー技士など)5.1%であった。

 年間残業時間数150時間をカットオフ値とした場合、労働時間数は脂質異常症(p=0.084)および糖尿病(p=0.508)の保有率には影響を及ぼさなかったが、高血圧の保有率には影響し、年間残業時間数が150時間未満の群の高血圧保有率9.2%に比べて150時間以上の群では高血圧の保有率が10.7%と有意に高かった(オッズ比[OR]1.188、p=0.039)。

 また、年間残業時間数が500時間以上の群では、高血圧の保有率は18.1%(500時間未満群は9.7%、OR 2.069、p<0.001)、脂質異常症の保有率は13.7%(500時間未満群7.6%、OR 1.928、p=0.001)、糖尿病の保有率は5.9%(500時間未満群は3.1%、OR 1.936、p=0.028)で、いずれも500時間以上群で有意に保有率が高かった。

 以上の検討から宗像氏は、高血圧は脂質異常症や糖尿病に比べて、長時間労働の影響を受けやすいと結論した。現在、池田氏らは長時間労働と高血圧や脂質異常症、糖尿病発症に関する機序の解明を進めているほか、心血管疾患発症との相関の解析も進めており、就寝時間が遅い場合や仕事への満足度が低い場合はイベント発症率が高いことなども明らかになりつつある。

(日経メディカル別冊編集)