RA系研究の世界的権威として知られる米Duke大のVictor J. Dzau氏。

 ISH2006のプレナリ(注目)セッションで先頭を切ったのは、レニン・アンジオテンシン系RA系)研究の世界的権威として知られる米Duke大保健医療部門総長のVictor J. Dzau氏。血行動態などに影響する血漿レニンでなく、局所で作用する組織レニンに焦点を当てた最新の研究結果を、「2006年のレニン:発見の1世紀」と題し、16日に開催されたプレナリセッション1で講演を行った。その概要を紹介する。

レニンは未知の病態生理学的反応の誘導に関わる可能性も
 「レニンが臨床医学と公衆衛生に与えた影響は計り知れない」。Dzau氏はまずこう強調した。レニンが発見されてから既に100年を超え、心血管系疾患におけるRA系の重要性は広く知られている。しかし、レニンは、アンジオテンシンIIを産生するだけでなく、レニン受容体との結合を介した作用も持つことが近年明らかになっており、未知の病態生理学的反応の誘導に関わる可能性も指摘されている。

 血液中のRA系の作用に比べ、腎臓、心臓などに対する組織レニンの作用は長期にわたるため、臓器障害をもたらすリスクが高いと考えられる。実際に体内でプロレニン/レニン受容体が機能することは、動物実験などで示されている。受容体との結合は、レニンの触媒活性を上昇させ、増殖や繊維化を促進する。組織レニンの由来については、血漿レニンの取り込みによる可能性と、局所発現による可能性が想定されるが、両方ともあり得ることを示すデータがある。

 では、既知のレニン阻害薬は組織におけるレニンの活性も阻害できるのか。「答えはイエス」とDzau氏は考えている。

 Dzau氏らは、脂肪組織に存在する間葉系幹細胞に対するレニンの作用を調べる実験を行い、(1)間葉系幹細胞から脂肪細胞が分化する際にレニン受容体の発現が上昇すること、(2)レニンは幹細胞からの脂肪細胞の分化を促すが、アンジオテンシンIIはそれを抑制する−−ことを明らかにした。これは、RA系は脂肪組織の脂肪細胞量を制御していることを示唆する。

組織レニンの発現はどのように調節されているのか
 では、組織におけるレニンの発現はどのように調節されているのか。これは、新規創薬標的の発見に結びつく可能性がある研究課題といえる。

 Dzau氏らは、肝臓X受容体アルファ(LRXα)がレニン遺伝子のプロモータ領域(CNRE)に結合すること、レニン遺伝子やc-myc(細胞増殖に関わるc-mycもCNRE領域を持つ)のcAMP依存性の発現調整に関わることを見出した。LRXαは、以前からコレステロール代謝の調節への関与が知られていた転写因子である。

 同氏らは、LRXαがレニンを分泌する糸球体近接細胞(JG細胞)の増殖を仲介しているのではないかと考え、in vivoでJG細胞におけるLXRαとレニンの局在が一致することを明らかにした。

 JG細胞はレニンの合成と分泌に特化しており、レニン産生能を維持しながら増殖できるという特徴を持つ。これまで、この細胞の起源と増殖の分子機構は不明だった。

 Dzau氏らは、cAMPによって活性化されたLXRαの初期遺伝子発現、ブロモデオキシウリジン(BrdU)の取り込み、細胞増殖に対する影響を調べた。その結果、cAMP-LXRα経路が、JG細胞によるレニン発現とこの細胞の増殖に総合的にかかわっている可能性が示された。

糸球体近接細胞の起源は?
 研究グループはさらに、増殖機構の理解を深めるため、JG細胞の起源を探った。これまでレニン産生細胞の前駆細胞は平滑筋細胞や平滑筋前駆細胞と考えられてきた。しかしDzau氏らは間葉系幹細胞こそが、JG細胞の祖先ではないかと考え、cAMPなどを加えた培養液で間葉系幹細胞を培養、これらの細胞でレニンmRNAの発現が上昇し、活性レニンが分泌されていることを明らかにした。

 Dzau氏らは、今後、ヒトの体内で虚血のような特定の病態生理学的刺激があった場合、JG細胞が増殖分化して治癒に役割を果たすのかどうか、といった研究を進める考え。こうした知見がJG細胞自体、あるいはレニン発現を標的とする新たな心血管疾患治療薬開発に役立つと期待している。