神戸市立医療センター中央市民病院の山上宏氏

 脳梗塞急性期の血栓溶解療法は日本でも急速に普及しつつあるが、日本人の脳梗塞患者においてrt-PA治療後の経過に及ぼす抗血小板薬の影響を検討した成績が、神戸市立医療センター中央市民病院の山上宏氏により、2月24日から26日まで米サンアントニオで開催された国際脳卒中学会(ISC2010)で発表された。

 山上氏らは急性期脳卒中患者の治療とリスク管理の状況を把握するため、多施設共同の観察研究The Stroke Acute Management with Urgent Risk-factor Assessment and Improvement(SAMURAI)studyを行っているが、今回報告されたのはそのサブ解析の結果だ。

 調査対象は日本の脳卒中治療施設10カ所で2005年から2008年にかけて、低用量rt-PA(アルテプラーゼ0.6mg/kg)静注による急性期治療を受けた脳卒中患者600例(平均72±12歳)。対象患者の臨床記録により脳卒中発症前における抗血小板薬投与の有無を調査した。抗血小板薬の影響を明らかにするため、rt-PA投与後36時間以内に発生する頭蓋内出血(CT所見により判定)および症候性頭蓋内出血(CT所見とNIHSSの変化により判定)の頻度および3カ月後の機能予後を検討した。

 調査対象の600例中189例(31.5%)が血栓溶解療法前に抗血小板薬を使用していた。処方されていた抗血小板薬とその割合はアスピリン84.1%、チクロピジン10.6%、シロスタゾール5.3%だった。抗血小板薬前投与群は非投与群に比べ有意に、年齢が高く、高血圧、脂質異常症、心房細動の合併率が高く、脳卒中および虚血性心疾患の既往が多く、治療開始時のNIHSSスコアも高かった。

 rt-PA投与後36時間以内に発生した頭蓋内出血は119例(19.8%)、症候性頭蓋内出血は23例(3.8%)だった。頭蓋内出血の発生率は抗血小板薬前投与群26.5%、非投与群16.8%であり、前者で有意に高かった(p=0.005)。症候性頭蓋内出血の頻度もそれぞれ8.5%、1.7%であり、抗血小板薬前投与群で著明に高かった(p<0.001)。

 3ヵ月後の機能予後は修正ランキンスケール(mRS)により評価したが、障害が比較的軽度なmRSスコア0-2の症例の頻度は抗血小板薬前投与群40.7%、非投与群50.4%であり、両群の差は有意であった(p=0.035)。3ヵ月間の死亡率は抗血小板薬前投与群10.1%、非投与群5.8%と前者で高かったが、有意差はなかった。

 頭蓋内出血の発生に関連する因子について多変量解析を行った結果、抗血小板薬前投与と心房細動合併が有意な因子であることが明らかになった(共にp=0.003)。症候性頭蓋内出血に対する有意な関係が認められたのは抗血小板薬前投与だけだった(p<0.001)。

 山上氏は以上の成績に基づき、「日本の急性期脳梗塞治療では安全性への配慮から欧米に比べ低用量のrt-PAが投与されているが、それでも抗血小板薬が前投与されていると頭蓋内出血が増加し予後不良となるおそれがあり、注意をはらう必要がある」と述べた。

(日経メディカル別冊編集)