10月18日から22日にかけてカナダ・モントリオールで開催された第20回世界糖尿病会議で、IDMPSInternational Diabetes menagement practices study)試験を主題に、「MEET-THE EXPERT」のセッションが開催された。IDMPS試験の進捗状況について、4人の専門家が解説した。

 最初に、コロンビア・Javeriana UniversityのPablo Aschner氏が世界の糖尿病の現状を報告した。その中で、全世界で毎年3800万人が糖尿病に起因する疾患で死亡していること、糖尿病およびその治療における経済的損失が極めて大きいことを示した。さらに同氏は、「発展途上国では、生活環境の欧米化に伴い、糖尿病患者が劇的に増加しており、WHOは、所得が低いか中程度の国々で、罹患率は近い将来に過去最大となるであろうと推定している。発展途上国においては、合併症を起こしてはじめて糖尿病と診断されることが少なくない。先進国と同様に、糖尿病患者の80%が“障害を考慮した生存年数”を縮めている」と述べた。

 IDMPS試験は、アジア、東欧、ラテンアメリカ、中東、アフリカを含む発展途上国における糖尿病患者の管理実態を明らかにするための5年間の観察研究である。毎年、地域ごとに糖尿病管理の側面について調べる「wave」から構成されており、既に3つの「wave」が実施された。「Wave 1」は、治療成績や治療指針を明らかにするために、インスリン治療を行っている937人の医師によって登録された17カ国の9901人の2型糖尿病患者を対象に行われた。「Wave 2」は直接の医療費および間接的に費やされる費用を明らかにするために、24カ国の1万5016人の2型糖尿病患者が対象とされた。今回は、「Wave 1」と「Wave 2」の解析データが明らかにされた。

 香港大学のJuliana C.N. Chan氏は、「Wave 1」について地域別のデータを交え、発展途上国における糖尿病治療の実態を示した。その結果、定期的に自己血糖測定を行っている患者は32.4%に過ぎず、36%の患者はHbA1c値検査をしたことがなかった。HbA1c値7%未満を達成したのは36.4%、HbA1c値、血圧、LDLコレステロール値のすべてが目標値に達成できたのは3.6%に過ぎなかった。血糖コントロール不良に関わる因子としては、罹病期間が短いこと、投与されている血糖降下薬の数が少ないことなどが、患者背景や自己管理の徹底などとともに挙げられた。同氏は、「今回の観察研究は、発展途上国における糖尿病管理の実態と欧米の各種ガイドラインにおける勧告とのギャップを際立たせる結果となった。患者自身、また糖尿病専門医は、複合的な治療目標の達成や合併症を早期に発見する上で求められるモニタリングをほとんど行っていなかった」と振り返った。

 India Diabetes Research FoundationのA. Ramachandran氏は「Wave 1」の結果から、血糖降下薬の使用状況、インスリン導入の実態などを示した。その上で、「多くの患者の血糖コントロールは不良で、血圧や脂質においても管理目標をほとんど達成していなかった。これらの現状と治療医の認識はかなり乖離していること、多くの患者が自身の血糖コントロールは良好であると信じていることも明らかになった。インスリン投与量も、HbA1cの目標値を達成するには、不十分であった」と話した。結論として「糖尿病の管理は、早期における治療介入、患者に対する適正なモニタリングと教育がなければ、かなり難しい」とした上で、各国の保健機関による総合的な取り組みと個別治療の重要性を語った。

 最後に、アルゼンチン・Centro de Endocrinologina Experimentaly AplicadaのJuan Jose Gagliardino氏が「Wave 2」の結果を紹介した。合併症のない糖尿病患者にかかるすべての費用を1とすると、細小血管系合併症がある患者にかかる費用は1.7、大血管系合併症がある患者にかかる費用は2.1、両方の合併症がある患者にかかる費用は3.5となった。その中に占める入院費の割合は、合併症のない糖尿病患者では約40%であるのに対し、両方の合併症がある患者では約60%を占めていた。同氏は最後に、「IDMPS試験は、“新興国”における糖尿病による医療資源の負担に関して、罹患率を基にボトムアップ・アプローチの手法を用いた最初の研究である。先進国の轍を踏まないために、細小血管および大血管合併症(血糖コントロール不良も含め)による医療費の拡大を抑える上で、限界ある医療資源に即した介入治療が求められる」とIDMPS試験の意義を強調した。

(日経メディカル別冊編集)