インスリン治療は血糖降下作用のみならず、心血管系疾患や死亡のリスクを低減することが複数の臨床試験から明らかにされつつある。カナダ・モントリオールで開催されている第20回世界糖尿病会議において、カナダ・マクマスター大学のHertzel C. Gerstein 氏は、強化インスリン療法による厳格な血糖コントロールが重要であり、1型、2型糖尿病、いずれにおいても、強力な血糖コントロールの低下が達成できた臨床試験においては、心血管イベントの抑制が示唆されていると指摘した。

 1型糖尿病に対する強化インスリン療法を検討したDCCTおよびEDIC試験では、試験終了時においてHbA1c値7.4〜7.9%が達成された。試験終了後の期間も含めた17年間の長期追跡では、強化治療群が従来治療群に比べて全ての心血管イベント発生率の低下(低下率:42%、p=0.02)、および、非致死性心筋梗塞+脳卒中+心血管系疾患死のリスク低下(低下率:57%、p=0.02)が示されており、厳格な血糖コントロールの重要性が示唆される。

 一方、2型糖尿病においては、患者の罹病期間の違いによってエビデンスもやや異なっている。新規糖尿病発症患者を対象としたUKPDS試験のサブ解析では、基礎インスリンおよびSU薬を併用した強化治療群において試験終了時HbA1c値7.9%が達成され、試験終了後の期間も含めた17年間の長期追跡において、従来治療群に比べて、心筋梗塞(ハザード比:0.85、p=0.01)、総死亡(同:0.87、p=0.006)のリスクが、有意に低下することが示唆されている。

 罹病期間5〜15年の患者を対象としたACCORD試験、VADT試験、ADVANCE試験では、強化治療によって、従来治療に比べて心筋梗塞や入院を要する心不全と致死性心不全、脳卒中などのリスクが低下する傾向が示されているものの、統計学的に有意なリスク低下を示した試験は少なかった。

 ただし、これら3試験とUKPDS試験も含めたメタ解析では、強化治療によって主要な心血管イベントや心筋梗塞のリスクが有意に低下することが明らかにされており、やはり厳格な血糖コントロールが重要であることが示唆される。罹病期間の長い患者では、血糖コントロールが難しく充分な治療効果が得られない可能性があり、インスリン製剤の選択と投与法の改善、経口血糖降下薬の併用などによって血糖コントロールを徹底し、さらなる心血管イベント抑制を期する必要があると考えられる。

 Gerstein氏は、ハイリスク患者におけるインスリン治療の難しさに触れ、持効型インスリンを用いるなど、血糖値を厳格に下げることが重要であると述べた。現在、早期糖尿病患者を中心として、境界型の空腹時高血糖(IFG)、耐糖能異常(IGT)も含めた1万2612例を対象とした大規模臨床試験ORIGIN(Outcome Reduction with on Initial Glargine Intervention)が進行中である。

 同試験の対象は、50歳以上で、心血管系疾患の既往があり、ハイリスクに分類される境界型糖尿病および糖尿病患者である。持効型インスリン製剤であるインスリングラルギンおよびオメガ3脂肪酸エチルエステルによる心血管系疾患抑制効果が検討されている。インスリングラルギン投与群では、空腹時血糖値95mg/dL未満を目標として投与量が変更される。早期糖尿病患者が82%、新規糖尿病患者が6.3%、IFGおよびIGTの患者が11.5%含まれており、これらの患者における血糖値の正常化が心血管系疾患および合併症の抑制に寄与するか否かが注目される。

 Gerstein氏は、インスリン治療の最適化によって血糖コントロールを改善することが心血管系疾患および死亡の抑制に結びつくと期待を寄せた。

(日経メディカル別冊編集)