オランダVU University Medical CenterのMichel T. Nurmohamed氏

 関節リウマチ(RA)患者は、慢性的な炎症が血管を障害する因子でもあることから心血管疾患(CVD)のハイリスク群として知られているが、そのリスクを抗TNF療法によって低減できる可能性が、10万例を超えるRA症例データベースの解析結果から示された。しかも、リスク低下の度合いは抗TNF療法の治療期間が長くなるほど大きくなり、3年継続者では56%もの相対リスク低下が得られるという。6月6日から9日までベルリンで開催された欧州リウマチ学会(EULAR2012)で、オランダVU University Medical CenterのMichel T. Nurmohamed氏らが報告した。

 RAやCVDの発症・進展には、TNFαをはじめとする炎症性サイトカインが関与しているとされる。近年、いくつかの観察研究により、抗TNF療法がRA患者の心血管イベント(CVイベント)のリスク低下をもたらす可能性が示唆されているが、治療期間とCVイベントリスクの関連性については知られていない。

 Nurmohamed氏らは、2500万人分もの米国の民間医療保険請求データベースであるThomson Reuters MarketScan Commercial Claims Databaseに収載されたRA患者の8年分の医療保険請求データをレトロスペクティブに解析し、抗TNF療法の有無および治療期間の長さとCVイベントの関連について検討した。

 解析対象は、同データベースの中で2003年1月から2010年12月にRAの病名で2回以上保険請求された18歳以上の患者10万9462例。そのうち抗TNF薬を1回でも投与されたことがある患者は3万8758例、抗TNF薬投与歴がなくメトトレキサート(MTX)投与歴がある患者は4万5016例、抗TNF薬とMTXのいずれについても投与歴のないその他のDMARD投与例は2万5688例だった。

 評価期間は、抗TNF療法の治療歴のある患者では、初回の抗TNF薬投与時から最新の保険請求時(または保険脱退時)まで、あるいは抗TNF療法終了6カ月後までとした。抗TNF療法の治療歴のない患者については、任意の時点から最新の保険請求時(または保険脱退時)まで、または治療終了6カ月後までとした。

 結果は、評価期間内に心筋梗塞(MI)、脳卒中、不安定狭心症、うっ血性心不全(CHF)のいずれかのCVイベントを発症した患者は、全10万9462例中1743例(1.6%)だった。治療別のイベント発生率は、抗TNF療法例では100人・年当たり2.2件、MTX投与例では同2.8件、その他のDMARD投与例では同4.2件であった。

 評価期間の直前1年間(ベースライン期間)のCVイベント発生状況や合併症の状況、RA治療薬の使用状況、CVD治療薬の使用状況、各種医療機サービスの使用状況、人口統計学的背景因子で補正したところ、抗TNF療法例の6カ月当たりのCVイベントのハザード比(HR)は0.87(95%信頼区間[CI]:0.79-0.96)となり、13%の有意なリスク低下が認められた。また、イベント別に見た解析では、心筋梗塞は20%、うっ血性心不全は22%の有意な低下がみられた。

 さらに、抗TNF療法を1年間行った場合と抗TNF療法を行わなかった場合のハザード比低下は24%、2年で42%、3年で56%となり、治療期間が長くなるほど大きなリスク低下が得られることが明らかになった。

 また、このリスク低下効果は50歳以上、あるいはMTX未投与の患者を対象にサブグループ解析を行っても変化はなかった(それぞれ14%、15%のリスク低下)。

 一方、MTXやその他のDMARD投与例では有意なリスク低下は認められず、ステロイド投与例では逆に8%の有意なリスク増加が認められた(HR:1.08、95%CI:1.03-1.13)。

 ただし、今回の検討の限界として、レトロスペクティブな観察研究であり、他の交絡因子が結果に影響を及ぼしている可能性を否定しきれない。特に、ベースライン時の血清脂質値や血圧、喫煙歴などの既知のCV危険因子に関する情報が不十分であり、その影響が考慮されていないことが本研究の限界であると結論された。

 以上の結果から、抗TNF療法は、年齢などの背景因子にかかわらず、RA患者のCVイベントリスクを低下させ、その効果は抗TNF療法期間が長くなるほど大きくなる可能性が示された。

(日経メディカル別冊編集)