東京医科歯科大学薬害監視学講座の針谷正祥氏

 ニューモシスチス肺炎PCP)は、酵母様真菌Pneumocystis jiroveciiによって引き起こされる日和見感染症で、生物学的製剤を含む関節リウマチRA)治療中に、最も注意すべき有害事象とされている。東京医科歯科大学薬害監視学講座の針谷正祥氏(写真)は、ロンドンで開催された欧州リウマチ学会(EULAR2011)において、生物学的製剤使用の拡大とともに増加傾向にあるPCPの現状と、RA患者におけるPCPの特徴、危険因子、治療および予防法について講演した。

 PCPは、生物学的製剤投与中のRA患者のほか、AIDSや癌、臓器移植の患者など、免疫機能の低下した患者のすべてに起こりうる日和見感染症だ。特にAIDS患者では発現頻度が高いが、AIDS患者のPCPに比べ重篤な呼吸不全が引き起こされ、患者は高率で死に至る。これまでの報告では、非HIV性PCP患者の死亡率は19〜47%に及ぶとされている。

 日本のTNF阻害薬の市販後調査のデータによると、RA患者のPCP発症頻度は、インフリキシマブ(IFX)投与例で0.44%、エタネルセプト(ETN)投与例で0.18%、アダリムマブ(ADA)投与例で0.29%だった。IFXの場合、患者10万人・年当たり880件の発症がみられたことになる。

 PCPの正確な診断には、培養による菌体の存在の証明が必要だが、実地臨床では培養せずにPCPと診断されることが多い。そのため市販後調査の発症数は、実際より若干多く出ている可能性があるという。

 針谷氏らの施設では、これまでに52人のTNF阻害薬を投与中のRA患者(IFXが21人、ETNが15人、ADAが16人)でPCPの発症をみている。同氏らは、PCP発症の危険因子を明らかにするために、TNF阻害薬の投与開始から52週以内にPCPを発症した50人の背景因子を、TNF阻害薬投与開始から52週以上経過後もPCPを発症していない患者265人と比較検討した。

 その結果、PCP発症群では非発症群に比べて、有意に年齢が高く(65.2歳 対 55.2歳、p<0.001)、女性の割合が低く(68.0% 対 84.2%、p=0.007)、呼吸器疾患の合併率が高く(48.0% 対 14.3%、p<0.001)、糖尿病の合併率が高い(24.0% 対 6.8%、p<0.001)ことが明らかとなった。

 また、メトトレキサート(MTX)の併用率(90.0% 対 76.2%、p=0.030)、経口ステロイド薬の併用率(86.0% 対 66.0%、p=0.005)が高く、1日当たりのステロイド投与量も多かった(プレドニゾロン換算 9.5mg 対 6.0mg、p=0.005)。

 個々の因子を独立変数としたCOXのハザードモデルを用いて解析を行うと、高齢(10歳当たりのハザード比[HR]:1.8、95%信頼区間:1.3-2.4)、呼吸器疾患の合併(HR::3.2、95%信頼区間:1.8-5.5)、糖尿病の合併(HR:3.0、95%信頼区間:1.5-6.0)、1日当たりのステロイド投与量が5mg以上(HR:2.9、95%信頼区間:1.5-5.4)の4因子が有意なリスク因子として同定された。

 次に針谷氏らは、TNF阻害薬投与を受けたRA患者300人を上記の危険因子の数によって、(1)危険因子なし(n=91)、(2)危険因子1つ(n=137)、(3)危険因子2つ(n=57)、(4)危険因子3つ以上(n=30)の4グループに分類し、その後のPCPの累積発症率を約1年にわたって追跡した。

 その結果、リスク因子の数が増えるに従ってPCPの発症率は相加的に上昇し、リスク因子3つ以上のグループでは1年以内に約8割の患者でPCPの発症が認められた。

 わが国のMTXならびに生物学的製剤使用ガイドラインでは、PCPのハイリスク患者には抗菌薬の予防的投与を推奨している。また、米国呼吸器学会(ATS)でも同様の推奨を行っている。実際に、ST合剤のsingle-strength(SS)錠1錠の連日投与またはdouble-strength(DS)錠(本邦未発売)の週3回投与により、非HIV患者におけるPCPの9割が予防できるという報告もあるという。

 また、PCPを発症した場合でもST合剤が有効で、針谷氏らの施設におけるPCP発症患者も、98.1%にST合剤、25.0%にペンタミジンが投与された。また、90.3%の患者にステロイドを補助的に投与した結果、死亡の転帰をたどった患者は2人(ADA投与:1人、ETN投与:1人)にとどまった。3.8%という死亡率は、過去の報告にある19?47%という死亡率よりかなり低率だった。

 針谷氏は、PCPはTNF阻害薬投与によって引き起こされる有害事象の中でも特に重篤な感染症だが、ハイリスク患者を同定し、適切な予防策を講じることによって、そのリスクはかなり回避できる。また、発症をみた場合も、早期診断と適切な治療によってリスクを最小限に抑えられることを強調して、講演を終えた。

(日経メディカル別冊編集)