ギリシャUniversity of Creta School of MedicineのG. K. Bertsias氏

 欧州リウマチ学会(EULAR)は、全身性エリテマトーデス(SLE)における神経精神症状の診療に関するリコメンデーションをまとめた。具体的な内容は、ギリシャUniversity of Creta School of MedicineのG. K. Bertsias氏が、6月10日から13日までデンマーク・コペンハーゲンで開催された第10回欧州リウマチ学会・年次集会(EULAR2009)で発表した。

 推奨はPubMedとCochrane Reviewのデータベースから関連する研究成果を抽出し、939の論文を評価して行われた。エビデンスレベルは、メタ解析の結果などによるエビデンスレベルの高いAから、観察研究や専門家の意見などによるエビデンスレベルの低いDまでに分類されている。

 まず、一般にSLE患者では、SLEの診断と同時期、または遅れて神経精神症状が生じるとした。診断後1年未満に生じることが多く(40-50%)。また、精神神経症状は、SLEの全身症状がみられる患者において多く生じる(50-60%)とした。

 神経精神症状としては、脳血管疾患やけいれんが一般的(10-20%)で、重度の認知障害やうつ、錯乱、末梢神経の障害は比較的少ない(3-10%)。精神疾患、脊髄炎、四肢・顔面筋の不随意運動(chorea)、無菌性髄膜炎が生じることは稀(3%未満)とする。

 SLEにおける神経精神症状のリスク因子としては、全身性のSLE活動性、認知障害やけいれんなどの神経精神症状の既往、もしくは抗リン脂質抗体陽性の場合としている。

以下にリコメンデーションの概要を示す。

一般的な診断に関する推奨
・神経精神的症状については、感染性疾患の可能性を除外するため、腰椎穿刺と脳脊髄液の解析を行う。脳の構造と機能を評価するため、EEG、認知機能の精神神経学的評価、神経伝導の試験、MRI画像診断を行う(エビデンスレベルD、以下同)。
・MRI検査としては、通常のMRI(T1/T2)、DWI(diffusion-weighted imaging)、ガドリウム造影によるT1撮影(B)を推奨する。
・MRI検査の結果、神経精神学的な疾患を認めない場合には、可能であれば、地域の専門家による、より高度の神経イメージング技術を用いた検査を行う(B、D)。脳血流による機能評価が可能なSPECTやMRS、MTI、PET、PWIなどの検査も併用することが望ましい。

一般的な治療に関する推奨
・コルチコステロイドや免疫抑制剤の利用は、SLEに関連して無菌性髄膜炎や脊髄炎など免疫/炎症プロセスが生じた際に望ましい(A、D)。
・抗血小板、抗凝固治療は、抗リン脂質抗体の発現に関連して、脳血管系に血栓が生じた際には特に望ましい(A、D)。
・抗けいれん薬や抗うつ薬、感染や高血圧に対する対症的な治療を行うことが望ましい(D)。
・抗血小板薬の投与は、抗リン脂質抗体が見られる患者における一次予防法として考慮されることが望ましい(D)。

脳血管系疾患に対して
・アテローム性、血栓性、塞栓性の脳血管障害は、SLE患者に一般的に見られる。一方、出血性の脳卒中は稀で、脈管炎による脳血管障害はより頻度が低い(B、D)。
・長期間の抗凝固薬の利用は、抗リン脂質抗体症候群の患者における脳卒中の再発(30-40%の頻度で生じる)抑制に強く推奨される(D)。

認知機能障害に対して
・低/中等度の認知機能障害は、SLE患者では一般的に見られる。しかし、重度の認知機能障害は一般的ではないため、そうした障害が認められた場合には、専門家とともに神経精神学的な評価を行うべきである(B、D)。
・心理的学習サポートなどにより、認知機能の低下を予防できる可能性がある(D)。

けいれんに対して
・単発性のけいれんは一般的である。再発の可能性は一般集団と同程度と考えられる(B)。ただし、MRIとEEGで脳機能の構造的疾患などを除外する必要がある(D)。
・けいれん後、MRIでは異常を認めず、EEGにおける異常が明らかな場合、抗てんかん薬の使用を中止することができる。ただし、再発性のけいれんに対しては長期間の抗てんかん薬の使用を考慮すべき(D)。
・全身性の疾患活動性がみられない患者においては、免疫抑制剤の利用は、けいれんの再発予防の効果は期待できない(D、A)。
・抗リン脂質抗体陽性の患者においては、抗凝固剤の利用を考慮すべきである(D)。

不随意運動に対して
・不随意運動がみられ、かつ抗リン脂質抗体が陽性の患者では、対症療法に加え、抗血小板薬を考慮すべきである(D)。
・コルチコステロイド・免疫抑制剤と抗凝固剤の利用(併用もしくはどちらか)は、全身性の疾患活動性がみられ、また、血栓性の症状が見られる重篤な患者において考慮すべきである(D)。

急性錯乱に対して
・脳神経系への感染を除外するため、脊椎穿刺やMRI検査を行うべきである(D)。
・重篤な場合には、コルチコステロイドと免疫抑制剤による治療を考慮すべきである(D)。

大うつ病や精神病に対して
・SLE患者に大うつ病のみがみられることは比較的稀であり、ステロイド性の精神疾患が生じることも非常に稀である(B)。
・血液検査や脳画像診断により、うつや精神疾患が診断できるという強いエビデンスはない(D)。
・全身性の疾患活動性が見られない場合には、免疫抑制の利用は薦められない(D)。

脊髄炎に対して
・脊髄炎の診断はガドリウム造影によるMRIと脳脊髄液の検査で行うべきである(B、D)。
・高用量のコルチコステロイドと、シクロホスファミドの静脈内投与による迅速な治療を行うこと(A、D)。
・再発予防のため、弱い免疫抑制剤の投与をメインテナンス療法として行うべきである(D)

視神経炎に対して
・SLE患者における視神経炎は両側性に生じやすい。
・診断は眼科的評価、MRI、視覚による誘発電位の測定で行うこと(B、D)。
・片側性で生じやすい脳梗塞性の視神経障害と区別する必要がある(D)。
・コルチコステロイド単独、もしくは免疫抑制剤との併用による治療を行うべきである(A、D)。

末梢神経障害に対して
・末梢神経障害は、他の神経精神的症状とともに生じることが多く、診断には筋電図検査(EMG)と神経伝導検査が有用である(B、D)。
・重篤な場合には、コルチコステロイドと免疫抑制剤の併用による治療を考慮すべきである(D)。