関節リウマチ(RA)のために働けなくなった人が、インフリキシマブ(IFX)による治療を受けたとしたら、10年後にはどのくらいの確率で仕事に復帰できるのだろうか? 「マルコフモデル」を用いてこの問題に挑んだJohnson & Johnson Pharmaceutical ServicesのC. Han氏らは、45歳時に働けなかった女性の6割、男性の5割が、10年後には労働力として社会に復帰しているだろうと予測した。研究成果はこのほどパリで開催された欧州リウマチ学会(EULAR)で報告された。

 米国の疫学データによると、RA患者のほぼ半数は、発症から10年以内に仕事の継続が困難になるという。RAは働き盛りの年代に好発することから、これに基づく経済的な損失は多大な金額に上ることが指摘されている。一方、今世紀に登場した抗TNF薬は、従来薬を大きく上回る高い有効性をもつことが数々の臨床試験で証明されており、労働損失の回復にも役立つことが予想されている。

 しかし、抗TNF薬が実際に患者の就労に及ぼす影響を前向き研究で検証するためには、10年、20年という長いスパンでの追跡が必要だ。そこでHan氏らは、現在の状態から将来を予測する「マルコフモデル」を用い、患者の予後予測に挑んだ。

 同氏らが、予測に用いた「材料」は、2004年に論文報告されたASPIRE試験のデータである。RA発症から3年以内にIFX+メトトレキサート(MTX)で治療を開始した患者約700人と、MTX単剤で治療した約300人を比較した本試験では、それぞれの患者の治療開始時と治療1年後の疾患活動性と身体機能、就労状況などのデータが記録されている。同氏らは、これらのデータのうち、治療開始時に64歳以下であった患者のデータを利用してマルコフモデルを構築。これにより、45歳で治療を開始した患者の10年後の就労状況を予測した。

 その結果、MTX単剤で治療した場合、55歳時において、女性の30.7%、男性の24.2%が就労したくてもできない状況にあるものと予測された。これは、ASPIRE試験における45歳の患者のベースライン時の非就業者率(女性31.4%、男性29.7%)からほとんど改善されていない。

 一方、IFX+MTXで治療した場合、55歳時において就労したくてもできない状況にある人の割合は、女性の18.5%、男性の14.1%と予測された。すなわち、45歳時に働けなかった女性の4割、男性の5割が、10年後には立派な労働力として社会に復帰していることが示唆された。

 以上の結果より、IFX+MTXによる治療は、MTX単剤での治療に比べ、将来の労働力をより大きく回復させる可能性が示された。RA早期から高価なIFXを用いることは、その後10年、20年にわたる就労機会の増加を考えると、「むしろ経済的な選択と考えられる」とHan氏らは結論している。