東京大学大学院医学系研究科腎臓・内分泌内科の藤田敏郎氏

 食塩感受性高血圧の発症には先天的な要因と後天的な要因が関与しているが、後天的な要因による機序に関する知見は断片的で体系化されていない。東京大学大学院医学系研究科腎臓・内分泌内科の藤田敏郎氏らは、交感神経系の亢進と腎におけるNa再吸収、血圧上昇をつなぐ“missing link”として、セリン―スレオニンキナーゼのWNK4の介在を証明。この経路におけるエピジェネティックな調節機序を明らかにした。6月20日までミラノで開催された第21回欧州高血圧学会(ESH2011)で報告した。

 食塩感受性高血圧の発症を促す因子のひとつとして、腎交感神経活性の過剰な亢進があることは古くから知られていたが、その機序は長らく明らかになっていなかった。そうしたなか藤田氏らは、遠位尿細管におけるNa-Cl共輸送体(NCC)の働きがWNK4によって抑制されるとしたLiftonらの報告に注目。WNK4が腎交感神経活性亢進と血圧上昇をつなぐ“missing link”ではないかと推測し、その仮説の検証を試みた。

 藤田氏の研究グループはまず、ノルエピネフリン負荷によってマウス腎におけるWNK4の発現が低下する一方、NCCの発現が上昇することを確認。また、β刺激薬 イソプロテレノール(ISO)の投与により、圧-利尿曲線の傾きが低下することも併せて確認した。このことから、腎交感神経β受容体への刺激によってWNK4のダウンレギュレーションが起こり、これがNCCのアップレギュレーションをもたらす結果、Na再吸収が促進され、血圧上昇へとつながることが示唆された。

 続いて藤田氏らは、予め炭で処理して細胞表面のコルチコイドを除去したマウスの遠位尿細管細胞に種々の因子を添加し、WNK4発現に及ぼす影響を調べた。その結果、ISO単独ではWNK4発現になんら影響を与えなかったが、デキサメタゾン(Dex)を加えた場合、発現量は7割程度に低下した。さらに、ISOとともにDexを加えた場合の発現量は4割程度にまで低下した。

 このことは、ISOはWNK4の転写を直接調節するのではなく、Dex等の糖質コルチコイド類に応答するnGRE(negative glucocorticoid-response element)を介した転写抑制作用を増強することによってWNK4のダウンレギュレーションをもたらすことを示唆する。

 糖質コルチコイド受容体(GR)のsiRNAを導入してGRの働きを阻害した遠位尿細管細胞では、ISOを添加してもWNK4発現は抑制されなかった。また、GR ノックアウトマウスにISO負荷を加えた場合も、高血圧は誘発されなかったことから、腎交感神経刺激によるWNK4のダウンレギュレーションは、nGREを介したエピジェネティックな修飾によるものであることが裏付けられた。

 エピジェネティックな修飾機序には、DNAメチル化、ヒストンの化学修飾、RNA干渉(RNAi)によるものがある。ISOによるWNK4発現抑制の増強は、ヒストン脱アセチル化酵素のひとつであるHDAC-8遺伝子を変異させた細胞では見られなかったことから、ヒストンの修飾によるものと考えられた。

 また、DOCA食塩感受性高血圧ラットにヒドロクロロチアジド(HCTZ)を投与するとNa排泄が促進されるが、この作用は交感神経β1受容体の選択的阻害薬では抑制されなかった一方、β2受容体の選択的阻害薬投与時にはほぼ完全に抑制された。よって、NCCへの作用を司るβ受容体は、β1ではなくβ2だと考えられた。

 これらの結果により、腎交感神経活性の亢進によるβ2受容体刺激は、HDAC-8活性の低下によるヒストンアセチル化の促進というエピジェネティックな機序によってnGREを介したWNK4へのダウンレギュレーションを促進。NCC活性を高める結果、Na再吸収が促進され、食塩感受性高血圧の発症へとつながるというメカニズムが明らかになった。

 今回得られた知見は、腎交感神経のアブレーションによる難治性高血圧の治療の可能性を報じた2010年のEslerらの報告にも合理的な根拠を与えるものだ。藤田氏は、「腎交感神経β2受容体―WNK4経路は食塩感受性高血圧治療の有力なターゲットだ」と結論した。

(日経メディカル別冊編集)