東京慈恵会医科大学循環器内科の関晋吾氏

 高齢者高血圧に対する積極的な降圧治療には、慎重論がなお根強い。東京慈恵会医科大学循環器内科の関晋吾氏らは、日本における高齢患者の最適な血圧管理を見据える上で、若年中年患者と高齢患者における各種パラメータを比較検討した。結果、多くの指標で若年中年者と高齢者に大きな違いはないものの、高齢患者では拡張機能の異常が認められることを、6月20日までミラノで開催された第21回欧州高血圧学会(ESH2011)で報告した。

 加齢により収縮期血圧は上昇するが、拡張期血圧は60歳前後から低下傾向を示す。JATOS試験は、高齢者に対する厳格な血圧管理と緩徐な血圧管理では、心血管イベント発症率に差がないことを示唆した。その一方で高齢者高血圧の特異的な臨床像を示唆する報告も多く、治療の方向性のコンセンサスはいまだ得られていない。

 関氏らは、高齢患者に最適な降圧治療を提供するためには、動脈硬化の程度や交感神経系の影響などを含めたパラメータの特性を詳細に理解する必要があると考え、今回の検討を実施した。対象は慈恵医大附属青戸病院の外来高血圧患者191人(男性60.4%)。冠動脈疾患、心筋症、重度の弁膜症、腎不全などの既往例は除外され、対象はすべて収縮機能が正常で、心不全の合併はなかった。

 これらの患者を65歳以上の高齢群57人(平均年齢72.0歳)と65歳未満の若年中年群134人(53.6歳)の2群に分け、生化学検査、心電図、X線検査、心エコー検査などを実施し、臨床像の違いを検討した。

 患者背景は、BMIが若年中年群の25.1に対して高齢群では23.4で、有意に低かった(P<0.05)。拡張期血圧は若年中年群の100.4mmHgに比べ、高齢群では94.4mmHgで、有意に低値(P<0.001)。収縮期血圧は両群に差はなく、脈圧は高齢群では69.4mmHgで、若年中年群の65.1mmHgより有意に高かった(P<0.05)が、心拍数に有意差はなかった。

 高齢群では、BNPが有意に高く(43.9 vs. 29.7pg/mL、P<0.05)、アルドステロン値は有意に低かった(70.8 vs. 86.5pg/mL、P<0.05)。尿酸値(4.9 vs. 5.8mg/dL、P<0.01)、γ-GTP(34.0 vs. 66.9 IU/L、P<0.05)は有意に低値だった。

 心電図検査によるSV1+RV5や、胸部X線検査による心胸郭比は、両群間に差はなかった。心エコー検査では、E波の減速時間(241 vs. 214 msec、P<0.001)、E/A比(0.74 vs. 0.92、P<0.001)、左室相対壁厚(48.4 vs. 44.8%、P<0.05)に有意差を認めたが、左室駆出率や心筋重量係数は差がなかった。

 高齢群を男女別に解析したところ(男性22人、女性35人)、血圧は収縮期、拡張期ともに変わらなかったが、アルドステロン値が、女性の63.3 pg/mLに対し、男性では83.4pg/mLと有意に高かった(P<0.05)。HDLコレステロールは女性の方が有意に高かった(49.4 vs. 58.0 mg/dL、P<0.05)。また、クレアチニン値(0.81 vs. 0.60 mg/dL)と血清尿酸値(5.8 vs. 4.4 mg/dL)が、男性で有意に高値だった(ともに、P<0.001)。

 心エコー所見では、左室相対壁厚が男性の44.9%に対し、女性は50.7%と有意に高かった(P<0.05)。高齢の女性には求心性左室リモデリングが認められることが危惧された。NCEP-ATP郡霆爐亡陲鼎メタボリックシンドロームの罹患率は、女性の5%以下に比べて、男性では約35%と顕著に高く、RAA系の活性化が背景にあるものと推察された。

 関氏らは「高齢者高血圧では、左室拡張機能が低下していることが明らかになった。その背景として、高齢男性ではメタボリックシンドローム、高齢女性では左室リモデリングの進展が危険因子と考えられる」と総括した。

(日経メディカル別冊編集)