フランスUniversity Hospital of NancyのGhassan Watfa氏

 認知機能障害の予防は公衆衛生上の重大な課題であり、認知機能障害と動脈硬化度の関連性はこれまでも指摘されてきた。しかし、平均年齢71歳の高齢者を5年間追跡したRotterdam Studyでは、動脈硬化度の指標の1つである脈波伝播速度PWV)と認知機能の間には相関は認められず、また80歳を超えた集団における検討は行われていなかった。そこで、80歳超の高齢者を対象にしたPARTAGE Studyが実施され、フランスUniversity Hospital of NancyのGhassan Watfa氏が研究グループを代表し、6月18日からミラノで開催された第21回欧州高血圧学会(ESH2011)で、PWVは認知機能低下と関連していたことを報告した。

 PARTAGE Studyの目的は、80歳を超える高齢者を2年以上追跡し、末梢血圧および中心血圧、動脈硬化度を用いて全死亡、主要心血管イベント、認知機能低下が予測できるかどうかを検討することである。今回は、PWVが1年後の認知機能低下に及ぼす影響について検討した結果が発表された。

 対象は介護施設で生活する80歳超の高齢者で、除外基準は以下の通り。認知機能を評価するMini Mental Status Examination(MMSE)スコアが30点中12点未満の者、日常生活における活動度(ADL)を評価するKatz Indexスコアが6点中2点未満の者、後見人がいる者、法的保護下にある者。

 フランスおよびイタリアから1113人が登録された。そのうち2回の認知機能テストを完了した873人を解析対象とした。

 解析対象者の年齢は88歳、女性比率は79%で、MMSEスコアは23.7、認知症の既往例は16%であった。心血管リスク因子の保有率は糖尿病15%、脂質異常症26%、現在および過去の喫煙習慣20%、高血圧既往73%であり、高血圧の治療中は95%を占めた。なお登録時の血圧は138/73mmHg(平均血圧94mmHg)、cfPWVは14.4m/秒であった。

 ベースラインのcfPWVで対象を3群に分け(3群の平均cfPWVは順に9.6 m/秒、13.5 m/秒、20.1 m/秒)、平均血圧や年齢、教育水準、ADLスコア、ベースラインのMMSEスコアで補正した上で、1年間のMMSEの変化率を比較した。その結果、cfPWVが高いほどMMSEの低下量は大きかった(P<0.03)。一方、ベースラインの血圧値でも同様に3群に分けて検討したが、MMSEの変化量と有意な関連性は認められなかった。

 本研究の限界として、認知機能の評価はMMSEだけで行ったこと、追跡期間が1年間と短かったことを挙げた。その一方で強みとして、介護施設入居者の大規模集団を対象としたこと、動脈硬化の非侵襲的マーカーとしてPWVを用いたことを挙げ、2年間の追跡は既に完了しており、5年後までの追跡も検討していることを明らかにした。

 Watfa氏は、「本研究の対象は高齢で脆弱な集団だが、この結果が背景の異なる他の集団にもあてはまるかどうかについては検証が必要である」と指摘。また、以上の結果を踏まえ、「PWVは認知機能低下と関連しており、超高齢者では認知機能低下のリスクを評価する有用な方法である」と、同氏は結論した。さらに、認知機能障害や認知症の発症に血管障害が関与していることが再確認されたことから、「超高齢者の認知機能障害の予防戦略を開発する上で有用な知見が得られた」と述べた。

(日経メディカル別冊編集)