慶応大医学部特別研究講師の市原淳弘氏

 2007年にレニン阻害薬である「アレスキレン」が欧米で薬事承認され、十数年ぶりの新クラス降圧薬が誕生した。「HYPERTENSION2008」ではレニン阻害薬はもとより、さらにその次のステージともいえる「プロレニン受容体阻害薬」の開発にも注目が集まっている。開会初日、「レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系の新たなプレーヤー」と題したセッション会場には、この分野の研究者らが多数押しかけ、立ち見客も出る盛況ぶりだった。

 慶応大医学部特別研究講師の市原淳弘氏(写真)はこのセッションで、レニンの不活性な前駆体であるプロレニンとプロレニン受容体との結合が糖尿病性腎症の病態に関与することを強く示唆する、トランスジェニックラットを使った実験結果を発表した。

 市原氏らはヒトのプロレニン受容体を高発現するトランスジェニックラットを作出し、通常飼育すると5カ月ほどで蛋白尿を発症することを確認。このラットに、レニンとレニン受容体との結合を競合阻害する「デコイ(「おとり」の意味)ペプチド」を長期間投与すると、腎症の発症が抑制されることを明らかにした。アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬を投与しても、同様の効果はみられなかった。

 先立って市原氏らは、儀拭II型の糖尿病モデルの実験動物を使った実験で、プロレニンが微小血管障害の発症に関与していることは示していた。しかしプロレニンとプロレニン受容体が結合することが、本当に腎症の発症に関連しているのかを裏付ける証拠はなかった。

 本来は、プロレニン受容体遺伝子をノックアウトしてみるのが、証拠を得るための正攻法といえる。しかしこの遺伝子をノックアウトすると致死的になりやすく、実験動物の作出が難航。そのため市原氏らは、逆にプロレニン受容体を高発現させた動物で腎症発症との関連を示唆しようと考え、今回、成功した。

 基礎研究を通じて、市原氏らが目指しているのは「プロレニン受容体ブロッカー」の開発だ。「ARBやACE阻害薬の腎症予防効果が明らかになってきたが、その効果は十分とは言えない。『プロレニン受容体ブロッカー』の開発により、糖尿病患者が腎症に至るのを食い止めることができれば、臨床的にも医療経済的にも意義は大きい」と話している。