Krzystof Narkiewicz氏

 6月14日、シンポジウム「Obesity-Mediated Hypertension and Cardiovascular Risk―New Mechanisms and Therapeutic Approaches」では、肥満高血圧心血管疾患の危険な関係をめぐって、新しい視点からの解明と治療戦略のアプローチについて4人の専門家が講演。最初に登壇したポーランドGdansk医大のKrzystof Narkiewicz氏(写真)は、病態生理学的な面と疫学的な面からレビューを行った。

 Narkiewicz氏は冒頭、米国で肥満が深刻化していることが報告されていると指摘。特に内臓肥満が目立って増えている点を強調した(Kardiologia polska 2007)。この傾向は他の国でも報告されており、たとえばノルウェーのHUNT試験によると、20歳以上の場合、1984年から1986年の調査では、25.0−29.9kg/m2のオーバーウェイトの人は男性で41.7%、女性で28.6%だったが、10年後の1995年から1997年の調査では、男性で53.2%、女性でも40.0%とそれぞれ10ポイント以上も増加していた。肥満(BMIが30kg/m2以上)は、1984年から1986年の調査では、男性で6.7%、女性で11.0%だったものが、1995年から1997年の調査では、それぞれ15.5%、21.0%と倍増していた(Droyvold WB etal, Int J Obes 2006)。

 Narkiewicz氏はまた、1998年から2006年に至る大規模臨床試験の対象者のBMIに着目。ほとんどの試験では対象者のBMIが27kg/m2以上であり、年を追うごとに値が高くなる傾向が見られると指摘し、「肥満の進展が深刻化している」とたたみかけた。

 その上でHOPE試験の結果を紹介。ウエスト(腹囲)が大きいほど、心血管死、急性心筋梗塞、全死亡のいずれのリスクも高くなることを改めて示した(Dagenais GR et al,2006)。

 肥満が深刻化している現状では心血管疾患のリスクはさらに高まっているというのが、ここまでのNarkiewicz氏の見解だった。

 続けてNarkiewicz氏は、身体活動のレベルと高血圧との関係に触れ、身体活動レベルが低いほど心血管死のリスクが相対的に高いことが示されていること(Fossum E,et al,J Int Medicine,2007)や、BMIが高くかつ身体活動レベルが低いほど高血圧のリスクが高まることも明らかになっている点(Hu G et al, Hypertension 2004)を指摘し、肥満と高血圧と心血管疾患の危険な関係を断つためには、身体活動レベルを高めることも一つの重要な要素であると考察した。

 後半に入りNarkiewicz氏は、心血管イベントのリスクを解明する新たなモデルを紹介した。早いうちに血管が老化していくことが心血管イベントのリスクを高めているというもので、最近、研究が活発になっている領域だ。肥満によって身体活動が低下し、それにともなって高血圧のリスクが高まるだけでなく心血管イベントのリスクも高まっていくのは、血管の老化が早まっていることが一因とする見方だ。今後、肥満の成因過程とそれにともなう血管変化との関係について、多くの研究がなされていくであろう。

 Narkiewicz氏は最後に、子供たちの現状を憂うる論文を提示した(Childhood Obesity−−The Shape of Things to Come、 David S. Ludwig,NEJM,2007,6;357:2325)。小児肥満の進展に警鐘を鳴らすものであり、Narkiewicz氏は、「肥満が次の世代へと受け継がれようとしている」と強い懸念を示し講演を締めくくった。