ドイツ・ザールランド大学のUlrich Laufs氏

 心血管イベントのハイリスク例において、空腹時および食後の血清トリグリセリド(TG)値がリスク因子になるかどうかは議論があり、耐糖能異常の有無による検討も行われていなかった。今回、Homburg Cream and Sugar(HCS)試験から、耐糖能正常の安定冠動脈疾患患者では、空腹時および食後のTG値は心血管イベントのリスク因子となることが判明した。8月27日からパリで開催されている欧州心臓学会(ESC2011)で、ドイツ・ザールランド大学のUlrich Laufs氏が報告した。

 心血管イベントの既往のない被験者を対象とした大規模臨床研究のメタ解析では、空腹時TG値は年齢、性別で補正後も冠動脈疾患のリスク因子となったが、さらに他のリスク因子で補正すると有意ではなくなった。また、健常者を対象とした大規模臨床研究では、非空腹時のTG値は心血管イベントの有意なリスク因子だったが、空腹時TG値は有意な因子ではなかった。

 こうした状況の中でUlrich氏らは、冠動脈疾患患者を対象に、伝統的なリスク因子および耐糖能異常に加えて食後TG値を評価することで、心血管イベントの予測能が改善するかどうかを検討するために本試験を行った。

 対象は安定冠動脈疾患患者514人で、脂質75gを含むクリーム250mLを経口摂取する脂質負荷試験を行い、5時間後までの血清TG値の変化を測定した。さらに糖尿病治療歴のない患者では経口TG負荷3時間後に75g糖負荷試験を実施し、負荷2時間後の血糖値で耐糖能異常の有無を判定した。

 主要複合アウトカムは18カ月後の心血管死および心血管疾患による入院とした。心血管疾患には、不安定狭心症、心筋梗塞、症状発症に伴う予定外の冠血管造影、心不全、虚血性脳卒中、一過性脳虚血発作、血行再建術を要する血管疾患、心肺蘇生を要する不整脈、緊急の心デバイス留置を含めた。

 ベースラインの患者背景は年齢66.4歳(男性比率82.9%)、血圧126.7/74.6mmHg、空腹時血糖値120.7mg/dL、HbA1c値6.17%、LDLコレステロール値105.1mg/dLだった。また、耐糖能正常が24.5%、耐糖能異常が29.2%、糖尿病が46.3%、メタボリックシンドロームが53.7%を占めた。主な治療薬の服用率は、抗血小板薬97.3%、レニン・アンジオテンシン系抑制薬95.5%、β遮断薬93.5%、利尿薬43.9%、スタチン94.6%などだった。

 食後TG値から対象者を198mg/dL未満群、198〜305mg/dL群、305mg/dL超群の3群に層別し主要複合アウトカムの発生を比較したが、その発生に統計学的な有意差は認められなかった(p=0.22)。

 一方、空腹時TG値から対象者を106mg/dL未満群、106〜150mg/dL群、150mg/dL超群の3群に層別して同様に主要複合アウトカムの発生を比較したところ、150mg/dL超群でその発生が有意に高率だった(p=0.04)。

 また、耐糖能異常/糖尿病群では耐糖能正常群に比べて、経口TG負荷試験後の血清TG値は空腹時から高値だったが、空腹時からの増加率は、この2群間で同等だった。

 さらに、耐糖能異常/糖尿病群では、空腹時および食後のTG値は主要複合アウトカムの予測因子ではなかった。これに対して耐糖能正常群では、空腹時および食後のTG値は主要複合アウトカムの予測因子となっており、その傾向は空腹時TG値が高い場合でも食後TG値が高い場合でも一貫して認められた。

 Ulrich氏は、本試験の限界として、負荷試験後のTG値を5時間までしか測定していないこと、対象の95%がスタチンの投与を受けていたこと、遺伝的背景は加味していないこと、対象は白人が大半を占めたことなどを指摘した上で、「耐糖能正常の冠動脈疾患患者では、空腹時TG値および食後TG値は、それぞれ冠動脈イベントの発症を予測する独立した因子である」とした。

(日経メディカル別冊編集)