カナダ・Laval Heart and Lung InstituteのGilles Dagenais氏

 9月2日に開催された「心血管イベントリスク低下と血圧の影響:新しいエビデンス」と題したサテライトシンポジウムでは、心、脳、腎のイベント抑制における厳格な降圧療法の重要性を論じた講演に続き、カナダ・Laval Heart and Lung InstituteのGilles Dagenais氏(写真)がONTARGET試験とTRANSCEND試験の結果を総合的に検討して、シンポジウムを締め括った。

 大規模臨床試験においてACE阻害薬は、心不全、左室駆出率低下、心不全を除く血管疾患、高リスクの糖尿病患者において心血管イベントの発生リスクを低下させることが報告されてきた。一方、ARBは心不全患者では心不全の増悪と死亡、左室肥大を伴う高血圧患者では脳卒中の発生リスクを低下させることが報告されてきたが、心不全を伴わない高リスクの心血管病あるいは糖尿病の患者を対象とした検討は行われていなかった。また、心不全患者にACE阻害薬とARBを併用した場合の効果については相反する結果が得られていた。

 こうした背景の下、ONTARGET試験では、心不全を伴わない心血管イベントの高リスク患者を対象に、テルミサルタン80mgとラミプリル10mgの心血管イベント抑制効果に差があるのか(非劣性試験)、両者の併用はラミプリル10mgに比べて優れているのか(優越性試験)が検証された。

 非劣性試験では、テルミサルタンの心血管イベント抑制効果は、HOPE試験で優れた効果が実証されたラミプリルと同等であること、その効果は心血管死、心筋梗塞、脳卒中、うっ血性心不全による入院、全死亡などの評価項目において一貫して認められることが明らかにされた。なお、ラミプリル群では咳や血管浮腫の発現率が高く、テルミサルタンの忍容性の高さが示された。

 一方、優越性試験では、ラミプリルにテルミサルタンを併用しても心血管イベント抑制の上乗せ効果は認められず、低血圧や腎機能障害などの有害事象の発現率が上昇した。

 TRANSCEND試験では、スクリーニング期間にACE阻害薬への忍容性がない症例を対象に、テルミサルタン80mgの心血管イベント抑制効果がプラセボと比較検討された。結果として、心血管死、心筋梗塞、脳卒中、心不全による入院から構成される主要評価項目はテルミサルタン群で8%低下したが有意差は認められなかった。しかし、主要評価項目から心不全による入院を除外した主要副次評価項目は13%有意に低下した。この主要副次評価項目はHOPE試験の主要評価項目に相当する。

 主要評価項目に有意差が認められなかった理由としてDageneis氏は、プラセボ群におけるイベント発生率が想定よりも低かったことを指摘した。例えば、TRANSCEND試験およびHOPE試験のイベント発生率は、それぞれ心血管死は7.5%および8.1%、心筋梗塞は5.0%および12.3%、脳卒中は4.6%および4.9%で、これらを複合した心血管イベントは14.8%および17.8%とTRANSCEND試験が低い発生率であった。その背景にはHOPE試験の時代と比べて、β遮断薬、利尿薬、スタチンなどの併用率は高いことが考えられる。

 また、TRANSCEND試験の副次主要評価項目のハザード比(95%信頼区間)は0.87(0.76-1.00)であり、HOPE試験の0.78(0.70-0.86)と比べると信頼区間は重複しており、結果は一貫したものであったことが推測できる。

 以上の検討から、ONTARGET試験では心血管イベントの高リスク患者において、テルミサルタンの心血管イベント抑制効果はラミプリルと同等であり、忍容性はラミプリルに比べて高いことが、TRANSCEND試験では検出力が想定よりも低かったが、その結果はHOPE試験の結果と一貫しており、ACE阻害薬に忍容性のない高リスク患者において、テルミサルタンは心血管イベントを抑制することが示された。

(山岸倫也=メディカルライター)