ドイツ・ボン大学のM. Steinmetz氏

 血管内皮の完全性や機能は内皮前駆細胞EPC)の影響を受け、その障害にはアンジオテンシンII(AII)が重要な役割を果たしている。一方、AT1受容体拮抗薬であるテルミサルタンは、PPARγ活性化作用を有することが報告されている。ドイツ・ボン大学のM. Steinmetz氏(写真)は、テルミサルタンがEPCの数や機能に及ぼす影響について、基礎実験ではヒト培養EPCを用いて、臨床では冠動脈疾患患者を対象に検討した結果を、8月30日から9月3日までミュンヘンで開催された欧州心臓学会(ESC2008)で報告した。

 採取したヒト血液からFicoll密度勾配法を用いて単核球を単離し、内皮細胞選択培地を用いて4日間培養してEPC細胞を分離した。EPCはDII-Ac-LDLおよびレクチンがともに陽性で、CD34およびVEGF受容体2(VEGFR-2)を発現していた。EPCをAII存在下、テルミサルタン(1〜100μM)存在下で培養し、テルミサルタンがEPCの数、増殖能、遊走能、アポトーシスに及ぼす影響について検討した。また、この系にPPARγ阻害剤であるGW9662 あるいはAT2 受容体拮抗剤であるPD123319を添加して、テルミサルタンの作用が消失するか否かを検討した。さらに、テルミサルタンにシンバスタチン(1μM)を併用して、その影響についても検討した。

 DII-Ac-LDL陽性細胞数(EPC数)はAII添加によって減少したが、テルミサルタンを添加すると、濃度依存性に増大した。この作用は、PPARγ阻害剤の存在下では消失したが、AT2受容体拮抗剤を添加しても影響を受けなかった。そのため、テルミサルタンによるEPC数の増加はPPARγ活性化作用を介したものであると考えられた。

 EPCの増殖能や遊走能はAII存在下で低下したが、テルミサルタンを添加すると濃度依存性に増強された。さらに、EPCのアポトーシスはAII存在下で亢進したが、テルミサルタンを添加すると濃度依存性に抑制された。なお、こうしたEPCの機能に及ぼすテルミサルタンの影響は、シンバスタチンを添加すると相加的に増強された。
 
 また、冠動脈疾患患者36例を、プラセボ群、ラミプリル(10mg/日)群、テルミサルタン(80mg/日)群の3群に12例ずつ無作為に割り付け、3カ月間投与したところ、末梢循環血中のD34/VEGFR-2陽性EPC数はテルミサルタン群でのみ有意に増加し、充血誘導性の上腕動脈血流の増加量はテルミサルタン群で最も大きかった。テルミサルタンのこうした作用は冠動脈疾患患者の血流改善に好影響を及ぼすと考えられる。

 以上の検討から、EPCの数と機能は、テルミサルタンのAT1受容体遮断作用とは独立して、PPARγ活性化を介して増強されることが明らかにされた。EPC数の増加は臨床においても確認された。基礎実験ではテルミサルタンとシンバスタチンの相加作用が認められたが、それは両薬剤が異なる細胞内シグナル伝達経路に影響を及ぼすため、すなわちテルミサルタンはPPARγを活性し、シンバスタチンはホスホイノシチド-3キナーゼ(PI3K)依存性の経路を活性化するためと考えられる。

(山岸倫也=メディカルライター)