ドイツ・ウルム大学のD. Walcher氏

 テルミサルタンは、PPARγ活性化を介してヒトCD4陽性リンパ球の前炎症性サイトカイン産生を抑制することが報告された。ドイツ・ウルム大学のD. Walcher氏(写真)らが、8月30日から9月3日までミュンヘンで開かれた欧州心臓学会ESC2008)で発表した。

 血管壁におけるCD4陽性リンパ球の遊走は、動脈硬化進行の重要なプロセスである。CD4陽性リンパ球はRANTESやSDF-1などのケモカインの刺激を受けるとTh1細胞に分化し、INFγやTNFαなどの前炎症性サイトカインを分泌する。これらのサイトカインは、内皮細胞、マクロファージ、血管平滑筋などを活性化し、血管壁の炎症反応を亢進させて、動脈硬化を進行させる。

 一方、テルミサルタンはAT1受容体遮断作用に加えて、PPARγ活性化作用を有することが報告されている。最近では、CD4陽性リンパ球にはAT1受容体だけでなくPPARγが発現しており、チアゾリジン系薬剤によるPPARγの活性化によって、T細胞の活性化が抑制されることが示されている。これまでに、Walcher氏らの研究グループは、テルミサルタンはAT1受容体遮断とは独立して、PPARγを介してCD4陽性リンパ球の遊走を阻害することを報告した。しかし、CD4陽性リンパ球の前炎症性サイトカイン産生にテルミサルタンが及ぼす影響については検討されていなかった。今回Walcher氏は、テルミサルタンがCD4陽性リンパ球における前炎症性サイトカインの発現を抑制するか否か、その作用がAT1受容体遮断作用とは独立したものであるか否かについて検討した結果を報告した。

 ヒトCD4陽性リンパ球を抗CD3モノクローナル抗体で活性化すると、Th1型サイトカインのmRNAおよび蛋白の発現が亢進する。この系にテルミサルタン(0.1〜10μM)を添加して、サイトカインの発現に及ぼす影響について検討した。また、PPARγ活性化作用を持たないARBであるエプロサルタンを添加して、テルミサルタンの作用がPPARγ活性化を介したものであるか否かを検討した。蛋白発現量はELISA法を用いて、mRNA発現量はノーザンブロット法を用いて定量した。
 
 活性化されたヒトCD4陽性リンパ球にテルミサルタンを添加すると、IFNγやTNFαの発現量は濃度依存性に抑制された。また、テルミサルタンはIFNγやTNFαの発現をmRNAレベルで抑制することが示された。この系にエプロサルタンをAT1受容体遮断作用を発揮する濃度(100μmol/L)で添加してもIFNγの発現は抑制されなかったことから、テルミサルタンによる前炎症性サイトカインの発現抑制はAT1受容体遮断作用とは独立して、PPARγ活性化作用を介したものであることが示唆された。

 さらに、内皮細胞を、活性化されたCD4陽性リンパ球の培養上澄み液を添加し培養したところ、内皮細胞表面のMHC II発現量が亢進したが、テルミサルタンを添加してCD4陽性リンパ球を培養した場合には、内皮細胞のMHC II発現量は亢進しなかった。このことから、テルミサルタンはCD4陽性Tリンパ球が産生する液性因子による作用を抑制することが示唆された。

 以上の検討から、ヒトCD4陽性細胞においてテルミサルタンは、AT1受容体遮断作用とは独立して、PPARγ活性化作用を介してTh1型サイトカインの発現を抑制することが示された。これらの知見は、テルミサルタンが動脈硬化の発症・進展における炎症性プロセスを調整し、動脈硬化病変の形成に影響を及ぼすことを示唆するものである。

(山岸倫也=メディカルライター)