ウクライナ・ブコビニアン州立医科大学のL. Sydorchuk氏

 高血圧患者では、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系の活性化に遺伝的な要因が関与しているか否かについて議論が続いてきた。ウクライナ・ブコビニアン州立医科大学のL. Sydorchuk氏(写真)は、遺伝子多型が血圧値、降圧薬への反応性に及ぼす影響について検討した結果を、8月30日から9月3日までミュンヘンで開かれた欧州心臓学会ESC2008)で報告した。

 試験に使用した降圧薬はACE阻害薬であるラミプリル、利尿薬であるヒドロクロロチアジド(HCTZ)、β遮断薬であるネビボロール、ARBと利尿薬の合剤であるテルミサルタン/HCTZの4剤で、スタチンであるアトルバスタチン併用時の影響についても検討した。また、今回着目した遺伝子多型はACE遺伝子のI/D変異、AGTR1遺伝子のA1166C変異である。

 対象となった高血圧患者249例(男性123例、女性126例)は平均年齢53歳、高血圧の重症度は軽症66例、中等症114例、重症69例であった。被験者は1日当たりラミプリル5〜10mg、HCTZ 25mg、ネビボロール5mg、テルミサルタン/HCTZ合剤80/12.5mgのいずれかを2週間単独で投与する群に無作為に割り付けられた。2週間後に降圧度に基づいて治療法の修正を行った。また、20例を無作為に選び、アトルバスタチン10mgを6カ月間投与した。降圧効果は24時間血圧および診察時の随時血圧を測定して評価した。また、ACEおよびのAGTR1の遺伝子型はPCR法で評価した。wash-out期間は2週間とした。

 結果として、ACE遺伝子多型のID型およびDD型ではII型に比べて、ベースラインにおける24時間血圧値は有意に高く、夜間に血圧が低下しないnon-dipperや夜間に血圧が上昇するnight-peakerの割合が多かった。一方、AGTR遺伝子多型のCC型ではAA型およびAC型に比べて24時間血圧は有意に高く、non-dipperの割合が多かった。

 次に、降圧薬の降圧効果に及ぼす遺伝子多型の影響を検討したところ、ACE遺伝子多型のID型やDD型ではII型に比べて、AGTR1遺伝子多型のAC型やAA型ではCC型に比べて収縮期血圧の降下度は大きかった。

 遺伝子多型と降圧度の関連性を降圧薬の種類ごとに調べると、ACE遺伝子多型のID型およびDD型ではラミプリルやネビボロールへの反応性(収縮期血圧)は高く、II型ではHCTZやテルミサルタン/HCTZへの反応性(収縮期/拡張期血圧)が良好であった。一方、AGTR1遺伝子多型は4種類の降圧薬への反応性にACE遺伝子多型ほどには顕著な影響を及ぼさなかったが、AA型やAC型ではネビボロールやテルミサルタン/HCTZへの反応性が比較的良好であった。しかし、CC型では降圧薬に対する反応性が不良であるため、早期から積極的な治療が必要だと考えられた。

 なお、アトルバスタチンを投与しても、ACEおよびAGTR1遺伝子の多型に依存した血圧低下には有意な影響は認められなかった。

 以上の検討から、高血圧患者においてACEおよびAGTR1遺伝子の多型は、血圧値や降圧薬に対する反応性に影響を及ぼすことが明らかにされ、遺伝子診断に基づいた個別の高血圧治療の有用性が示唆された。
 
(山岸倫也=メディカルライター)