スイス・ジュネーブ大学のEdoardo Camenzind氏

 薬剤溶出ステントと従来のベアメタルステントを比較した場合、薬剤溶出ステントの方が、死亡や心筋梗塞の頻度が高まる――こんな衝撃的なメタ分析結果2題が、9月3日の最新臨床試験報告セッション「ホットライン1」で報告された。同じセッションの中でこの演題だけは報道陣向けの事前説明会を行わず、ぶっつけ本番の発表となった。

 研究成果を報告したのは、スイス・ジュネーブ大学のEdoardo Camenzind氏とスイス・バーゼル大学のAlain Nordmann氏。いずれも、第1世代の薬剤溶出ステント(DES)とベアメタルステント(BMS)のステント血栓症リスクを比較した無作為割付試験を対象としたメタ解析を実施した。

 Camenzind氏らは、シロリムス溶出ステント(SES)またはパクリタキセル溶出ステント(PES)とBMSを比較する二重盲検試験の中から、製品開発企業から支援を得て行われ、死亡、Q波心筋梗塞、Q波心筋梗塞+死亡の3項目のデータが揃っている研究を選んだ。これらの発生率がステント血栓症の罹患率を反映すると考えたからだ。

 分析対象としたのは、SESに関する臨床試験ではRAVEL、SIRIUS、E-SIRIUS、C-SIRIUS。患者総数はSES群878人、BMS群870人。PESに関する試験ではTAXUS I、II、IV、V 、VI。患者数はPES群1685人、BMS群1675人だった。

 試験ごとにデータを層別化し、利用可能な最新の追跡データをプールして比較したところ、Q波心筋梗塞と死亡の発生率は、SES群で6.3%、対照となるBMS群では3.9%で、BMS群の方が38%リスクが低かった(P=0.03)。PES群のQ波心筋梗塞または死亡の発生率は2.6%、対照BMS群では2.3%で有意差はなかった(P=0.68)。

スイス・バーゼル大学のAlain Nordmann氏

 一方、Nordmann氏は、第1世代DESとBMSの間で、心臓死と非心臓死の発生率を比較した無作為割付試験のメタ分析結果を発表した。

 BMS群とSES群の全死亡を比較したところ、留置から時間を経るにしたがってSESのオッズ比は上昇したが有意差はなかった。心臓死についても有意な差は認められなかった。非心臓死については、留置から2年後のSES群のオッズ比が2.74、同じく3年後は2.04と有意に高かった。PESとBMSの間の比較では、すべて有意差なしとなった。

 非心臓死は36人、うち15人は癌(リンパ腫、肺癌、前立腺癌、膵臓癌、消化器癌、腎臓癌、直腸癌)で死亡していた。Nordmann氏は、「癌の発生は、免疫系に対するシロリムスの抑制作用に起因するのではないか」と考察していた。

 この研究では、DESはBMSに対して全死亡を減らす効果が見られないこと、SESを用いた場合、BMSに比べて非心臓死のリスクが上昇する可能性があることが示された。

PCIのむやみな適用は控えるべき

 本学会では、臨床試験最新報告など特別セッションの発表については、フロアからの質問に代わり、指定演者によるコメント発言が行われた。2演題に対しては、カナダ・マクマスター大学のSalim Yusuf氏がコメントを担当した。

 Yusuf氏は、「症状が安定している患者では、薬物療法の方がPCIに優るアウトカムを得られるのに、患者を選別しないでPCIを行う傾向が強まっている」と指摘する。本来、薬剤で管理できる安定狭心症などの患者にPCIを行っても、死亡率に対する利益は得られず、イベント抑制効果もない。短期的な胸痛の軽減のみが可能という。また、「DESは再狭窄を抑制できるとされているが、そもそも留置のためのPCIを行わなければ、再狭窄は起こりえない。PCIのむやみな適用は控えるべきだ、と警告した。

 2題の発表で最も気になるのは、なぜ、DESでは長期的な死亡率が上昇するのか、という点だ。この点についてYusuf氏は、(1)遅発性ステント血栓症リスクが心筋梗塞の発生率を高める、(2)想定された期間を超えてステントからの薬剤溶出が持続し、シロリムスの細胞分裂抑制作用が全身性の副作用を引き起こす、という仮説を提示、「仮説の真偽を確かめるには、DES留置患者を5年以上にわたって追跡して、遅発性ステント血栓症の発生を評価し、癌や敗血症といった非心臓性の副作用について調べる必要がある」としていた。